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<レジェンドが語るクラシコ> ティエリー・アンリ 「レアルへの勝利は無限の力を与えてくれる」
posted2014/10/24 11:30
text by
田村修一Shuichi Tamura
photograph by
Daisuke Nakashima
過去、幾度となく名勝負を繰り広げてきたスペインの二大ビッグクラブ、
レアル・マドリーとバルセロナの宿命の一戦のことだ。
そのピッチに立った選手たちは、W杯優勝者やバロンドール受賞者など、
いずれも劣らぬ名選手たちばかり。そんな彼らにとってもなお、
「クラシコ」はやはり別格なのだという。彼らが伝統の一戦で感じたものとは、
一体なんだったのだろうか?
Number863号『レジェンドが語る 愛と憎しみのクラシコ』より、
プレミアリーグでは歴代最多の4度の得点王を獲得し、
現在は米国で活躍するティエリー・アンリのインタビュー記事。
雑誌に収めきれなかった完全版を公開します。
ティエリー・アンリがヨーロッパで過ごした最後のビッグクラブであるバルセロナで、彼はチームの主役にはならなかった。
「フランス代表にジズー(ジダン)がいて、彼の活躍が僕の存在感を薄くしたように、バルセロナにはロナウジーニョやメッシがいた。だから仕方がないことなんだ。アーセナルでは僕が他の選手に対してそうだったからね」と彼はいう。
だが、それでもアンリは、3シーズンの間に公式戦127試合に出場し49得点という確かな実績を残し、クラシコでも人々の記憶に残る勝利を刻み込んだのだった。
「本物のクラシコは、どの試合とも違っていた」
「それまで僕は、アーセナル時代にはロンドンダービーを無数に経験してきたし、当時のイングランドのクラシコともいえるマンチェスター・ユナイテッド戦も幾度となく戦ってきた。でも本物のクラシコは、そうしたどの試合とも違っていた。
チェルシーやトッテナムとのダービーは、たしかに負けられない試合ではあった。ただ、当時のアーセナルは、リーグで無敗記録を更新するなど、精神的にも実力の面でも彼らに対してアドバンテージがあった。本当の意味でライバル意識がむき出しになったのはマンU戦で、僕らにとって絶対に勝たねばならない試合だった。たぶんそこには、ロンドンとイングランド西北部という、地理的な対立も含めた歴史的な背景もあったと思う。
だからクラシコも、ある程度はわかっていたつもりだったけど、現実は想像を絶していた。メディアの騒ぎ方、煽り方からして、イングランドとはまったく違うからね。レアルに勝つことが、僕らに無限の力を与える。逆に負けると……わかるだろう。
2007年12月23日、カンプノウで行なわれた最初のクラシコを、僕は怪我でベンチから見ていた。ロニー(ロナウジーニョ)が奮闘したこの試合を、レアルは効率的にプレーして1-0で勝った。あれはまさにシーズンの分岐点だった。僕らが勝てば、首位のレアルに勝ち点差1まで迫れたのに、逆に7まで差を広げられてしまったからね」