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80200人が目撃した香川真司の帰還。
変わらぬ愛とプレー、変わったものは?
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byAFLO
posted2014/09/14 15:30
ドルトムント復帰初戦となったフライブルク戦でゴールを決め、試合前から続いていたファンの熱い声援に応えた香川真司。
前回在籍時にも、香川のスルーパスは輝いていた。
「1点目の起点となるパスは、素晴らしいものだった」
クロップ監督が試合後に香川のプレーで絶賛したのも、スルーパスのシーンだった。
思えば、香川がドルトムント時代に最初にインパクトを与えたのは、ゴールを量産した最初のシーズンの前半戦だった。
ただ、彼のプレーが凄みを増したのは、チームが無敗で乗り切った2シーズン目の後半戦だった。ゴールを決めるペースは最初のシーズンの前半戦と変わらず、アシストを含めて、ゴールに絡む回数が飛躍的に伸びたからだ。当時、香川はこう語っている。
「昨季('10-'11シーズン)はどっちかといったら得点ばかりで、スルーパスに関してはセンスないなと感じていたけど、今季はスルーパスが、たとえシュートにつながっていないパスでも、チャンスを作れているから」
ゴールだけを狙わずともチームを機能させることに意識を向ければ、ゴール数自体も、チームでの存在感も増していけると当時の香川は確信したのだ。
「ああいうときにこぼれてくることが何より大事」
そして前半41分、ドルトムントのカウンターのチャンスからだった。右サイドを疾走したラモスがクロスを入れる。ゴール前にムヒタリアンが入る。ファーサイドには香川がフリーになっていた。
「(スルーしてくれと)言ったんですけど、たぶん、ミキはシュートを打ちにいったと思う(笑)」
ゴール前ムヒタリアンはこのシュートを空振り。するとボールはファーサイドにいた香川のもとへ。今季から背番号7を背負う日本人がダイレクトで右足であわせると、シュートはゴール左隅に決まった。復帰初戦で、決勝点となるゴールを決めたのだ。
「ああいうときにこぼれてくることが何より大事なので。自分の念が通じたんじゃないかなと思います」
試合後に香川は笑顔でそう振り返った。
選手個人の力でゴールを決めるのはたぐいまれなる才能のなせるわざだ。しかし、チームのために働くことで、結果的に個人のプレーが輝く場面をたぐりよせる。それもまた、一つの才能なのだ。
柔よく剛を制す。
そんな日本のことわざを証明するような、1人の日本人選手が絡んだ2つのゴールだった。