ブラジルW杯通信BACK NUMBER
最強の攻撃陣を封じあった120分間。
アルゼンチン、'90年以来の決勝へ。
posted2014/07/10 12:50
text by
細江克弥Katsuya Hosoe
photograph by
Getty Images
試合開始のホイッスルから2時間37分後、アルゼンチンのGKセルヒオ・ロメロが左胸を叩いて雄叫びを上げた瞬間、息苦しいほどの緊張感がはじめて張り裂けた。
オランダの1番手、ロン・フラールの失敗に続いてペナルティスポットに向かったのは、それまで自分の仕事だけを淡々とこなしてきたアルゼンチンのエースだった。リオネル・メッシが表情一つ変えずにゴールネットを揺らしたことでPK戦の大勢は大きく傾き、ウェスレイ・スナイデルの強打を弾いたロメロが「バモ!」と再び叫んだ瞬間、勝敗はほぼ決した。
ドイツとの決勝に進むのは、策士ルイス・ファンハール率いるオランダではなく、4強のうち最も抑揚なく淡々と勝ち上がってきたアルゼンチンとなった。ファイナル進出は、1990年イタリア大会以来24年ぶり。あの時と同じようにPK戦の勝利によってもたらされた決勝進出の立役者となったのは、2本のPKをストップした24年前のヒーロー、GKセルヒオ・ゴイコチェアと同じ“伏兵”のロメロだった。
エースにボールを触らせない両チームの徹底マーク。
ピッチに立つ選手たちの体力が無限なら、どれだけ時間を費やしてもゴールは生まれなかったかもしれない。そう思わせるほど、ゴールの遠いゲームだった。
前日にブラジルが喫した歴史的大敗が影響したのか、両者とも立ち上がりから慎重に慎重を重ねた。
前半終了時点でのシュート数は、アルゼンチンが「3」でオランダが「1」。アルゼンチンのメッシとゴンサロ・イグアイン、オランダのロビン・ファンペルシとアリエン・ロッベンにお互いほとんどボールを触れさせないほど両チームのエースに対する警戒心は強く、中盤でリスクを消し合う静かなゲームが続く。“観る側”としてはもの足りなさを感じたが、ピッチに立つ選手たちにとっては、精神的な消耗の激しい緊迫した展開だった。
それでも選手たちは、焦ることなく冷静にゲームをコントロールしてチャンスを待っていた。最初にしびれを切らしたのは――というより冷静な一手で膠着状態を打開しようとしたのは、オランダの指揮官ファンハールだ。