ブラジルW杯通信BACK NUMBER
32試合で94点、今大会は“面白い”!
W杯のトレンドを決めた3つの文脈。
text by
田邊雅之Masayuki Tanabe
photograph byGetty Images
posted2014/06/24 16:30
ブラジルのトップ下で、オスカルほど守備に奔走する選手はこれまでいなかった。攻撃を牽引すると同時に、守備でも大きな役割を果たすオスカルは、ブラジルにとってネイマールと同じか、もしかするとそれ以上に重要な選手である。
2つめの文脈は「ティキ・タカ」の受難。
結果、もたらされたのは「ティキ・タカ」の受難だ。これが今大会を読み解く2つ目の文脈になる。
スペイン代表は、他のチームにも増して戦術的なコンセプトが明確だったし、プレースタイルの共有も進んでいた。
だからこそ2008年のユーロ以降、黄金時代を築いたわけだが、ここまで各チームの守備意識(組織的なプレッシングと、自陣に素早く戻ってからの守備ブロックの構築)が高くなると、さすがにスペースはこじあけにくくなる。
その意味でブラジル大会を、「攻撃サッカー」という単語だけで括ろうとするのは危険だ。
たしかにゴールは量産されているし、スペクタクルと迫力に富む攻撃が繰り出される場面を目にすることは多い。
だが攻撃が速く、ダイナミックになったのは、そのような攻撃を仕掛けなければ、守備陣を崩せなくなったことの裏返しに他ならない。今大会はアフリカのチームでさえも、組織的に守っている。かつてアフリカのチームは、ディシプリンが欠如した集団の代名詞のように思われていた。だが今のところ、悪しきアフリカのイメージをなぞったのは、敵のDFではなく味方の選手に頭突きを食らわせた、カメルーンチームだけである。
攻守のレベルアップを結びつける、プレッシング
組織的な守備の向上と、攻撃サッカーの隆盛。一見、相矛盾するようなトレンドを結びつけるのはプレッシングだ。これが大会から浮かび上がる、3つ目の文脈となる。
この点に関して、実に示唆に富む発言をされていたのが日本のサッカージャーナリストの草分け的存在、現在89歳の賀川浩さんである。
ちなみに賀川さんにご縁をいただいたのは今から16年前、やはりイギリスにおけるサッカージャーナリストの大御所、ブライアン・グランビルが記したW杯の全史を共訳させていただいた時までさかのぼる。賀川さんは今回、10回目となるW杯の取材に来られており、日本対ギリシャ戦で隣席した際に、貴重な話をきかせていただいた。
賀川さんによれば今回のブラジル大会は「W杯史上、最も攻撃的な選手が多く揃った大会」になっただけでなく、「プレッシング・サッカーが前面に出た大会」になったのだという。
曰く。
「もともとプレッシング・サッカーは、1974年のW杯西ドイツ大会でクライフのオランダが使い始めたものでした。
もちろん90分間、プレスをかけ続けることはできませんから、どこでどうプレスをかけるかという戦術が必要になります。でもオランダ代表に象徴されるように、今大会は明らかにプレッシングが主流になっている。それがこのブラジルで起きたというのは、不思議というか何と言うか、巡り合わせのようなものを感じますな」