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32試合で94点、今大会は“面白い”!
W杯のトレンドを決めた3つの文脈。
text by
田邊雅之Masayuki Tanabe
photograph byGetty Images
posted2014/06/24 16:30
ブラジルのトップ下で、オスカルほど守備に奔走する選手はこれまでいなかった。攻撃を牽引すると同時に、守備でも大きな役割を果たすオスカルは、ブラジルにとってネイマールと同じか、もしかするとそれ以上に重要な選手である。
「守備的10番」オスカルが決めた今大会の流れ。
僭越を承知で言えば、僕も同じようなことを感じていた。W杯のような大会では、全体の「トーン」を決める試合が必ずある。それが開幕のブラジル対クロアチア戦であり、大会二日目のオランダ対スペイン戦だった。
現在のブラジルは攻撃的なサッカーを展開しているが、実際には「ディフェンシブ・チャンスメイカー(守備的10番)」のオスカルが陰のキーマンになっている。多彩なアイディアとテクニックを駆使して、決定的なチャンスを演出しつつ、プレッシングやタックルという汚れ仕事を厭わぬオスカルは、まさに攻撃的であり、守備的でもある今大会のサッカーを象徴する存在になった。
支配率で劣りながらも、大勝を収めたオランダ。
オランダもしかり。スペイン戦で一番興味を引かれたのは、ポゼッションで劣ったにもかかわらず5-1で圧勝を収めた点だ(ボール支配率はスペインの57%に対し、オランダは43%)。
これは従来のオランダのイメージと、大きくかけ離れている。以前のオランダは、ポゼッションで相手を上回りながら試合を取りこぼしてしまうケースが多かったからだ。現にユーロ2012ではデンマークに0-1、ドイツに1-2、ポルトガルにも1-2で敗れてグループリーグで姿を消したが、この3試合はいずれもオランダが支配率で上回っていた(デンマーク戦とドイツ戦は52%、ポルトガル戦はなんと58%)。
だがスペイン戦において、支配率と試合結果の因果関係は逆転した。それを可能にしたのが、ファンペルシのアクロバティックなヘディングシュートを生んだロングパスであり、陸上選手ばりのロッベンの快走だったのである。
スペインとドイツの差を生み出すケディラの貢献。
むろん大会が終わったときには、支配率で上回るチームの方が良い勝率を残す形になっているはずだ。
だが支配率で上回る=ショートパスをベースにしたティキ・タカではもはやない。支配率で上回っていても、決定的なチャンスの多くは足の長いパスや、プレッシングからのカウンターを起点に生まれていくだろう。ゼロトップで、前線の選手達が円運動を描きながら攻撃するドイツが、スペインの二の舞になるのを避けられているのは、時折ケディラが縦方向のアクセントを加えているからである。
思想としてのティキ・タカが、完全に破綻したとは思わない。しかし時代の要請に併せて、アップデートしなければならないタイミングにさしかかっているのは明らかだ。