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「僕は途中からの選手じゃないから」
自信と試行錯誤を両立する大迫勇也。
text by
寺野典子Noriko Terano
photograph byGetty Images
posted2014/06/09 16:30
ザッケローニ監督からの細やかな指示を練習で聞く大迫勇也。競争が激化する1トップの中でも、ポストプレー、周囲との連係に関しては分があるか。
ミュンヘンで培った、試行錯誤する能力。
他の選手にはない自身の“色”を大迫は明確に自覚している。だから、迷いなくそのプレーの精度を上げていけるのだろう。チームのサッカーを俯瞰し、チームメイトの特長を認識し、コミュニケーションを深めながら、自分の個性が発揮できる環境を整えているように思う。戸惑いも見られず、高い質の試行錯誤をしながらアジャストしていく能力は、1860ミュンヘンでの経験からもたらされたように感じる。
ブンデスリーガ2部のミュンヘンでは、何度も動き直しをしてボールを引き出そうとしてもパスが出て来なかった。ボールを持った選手の視野に、大迫が入ってこないのだ。
「監督からは『真ん中にいてくれ』と言われている。僕が裏へ抜けて、パスを要求してもチームメイトには『僕が見えていない』というのも理解している。でもそこであきらめたくはないから。要求し続けていきたい。
苦労は多いですよ。でもその苦労をどれだけ受け止めて、真面目に頑張れるかだと思っています。いろいろと試しながら、割り切るところは割り切って。いろいろな経験ができていると、プラスに考えています」
「本大会でこの感じだったら、多分やられる」
1月の移籍から約4カ月。わずかな期間だったが「今自分には何ができるのか」を追求した時間だったに違いない。シーズン終盤にトップ下に起用され、「ボールがさわれるし、やっと楽しくなってきた」と笑みを浮かべていたことを思い出す。
「代表でプレーするのは、本当に楽しいですよ。トップ下には巧い選手がたくさんいてそこからボールも出てくるし、サポートもしてくれますからね」
W杯を前にしたポジション争いというプレッシャーだけでなく、プレーの楽しさを体感している。だからこそ、大迫のプレーには余裕が感じられるのかもしれない。
ザンビア戦後半22分、内田篤人と酒井宏樹が交代するためにゲームが止まったときには、「試合が止まって、ダラっとした空気にならないように思った」と周囲を鼓舞するように声を上げていた。これは3連覇を果たした鹿島アントラーズ時代に身につけた危機管理能力だろう。
試合を振り返り、「本大会でこのような感じで試合に入っていたら、多分やられているんだろうなというのは、みんなが思ったと思うから。そこはもう一回引き締めないとダメかなと思います」とも話している。