オフサイド・トリップBACK NUMBER
ファンハールはマンUをどう変える?
ウイング、確率論、そして香川真司。
text by
田邊雅之Masayuki Tanabe
photograph byGetty Images
posted2014/05/20 11:10
現在はオランダ代表を率い、ブラジルW杯への準備を進めているファンハール。今大会後の退任が確定したわけだが、母国にどんな置き土産を残すのだろうか。
奇怪な変化を遂げた、モイーズ指揮下のユナイテッド。
他方、ユナイテッドのサッカーは奇怪な方向で変化した。
'12-'13シーズンのユナイテッドは、プレミアの王座に返り咲き、ファーガソンの勇退に花を添える。だがウイングサッカーを進化させていかなければならないことは、誰の目にも明らかだった。
それはファンぺルシへの依存度の高さが如実に示している(チームの総得点86から、ファンペルシのゴール26を引いた場合、得点数は60に留まる。しかもプレミアの得点ランキングの十傑に、他の選手は一人も名を連ねていない)。
ファーガソンは途中で現実路線に切り替えたとは言え、そもそも香川真司をドルトムントから招いたのも、ユナイテッドのサッカーを進化させなければならないという、強い焦りに駆られてのものだった。
ところが'13-'14シーズン、ファーガソンの後を継いだモイーズは、戦術進化の時計の針を逆方向に進めてしまう。ウイングサッカーを進化させるどころか、ファンペルシやルーニーを故障で欠いているにも拘らず、サイドからの放り込みサッカーを推進したため、ユナイテッドは「確率論的なサッカーをするチーム」から「おそろしく確率の低いサッカーをする集団」に堕したのである。その最たるものが「サッカーの試合ではなく、クロスの本数を競い合う別種の競技のようだ」と揶揄されたフルアム戦だ。
モイーズ采配の弊害は、単なるゴール数の低下に留まらない。相手の守備陣を崩しきっていないにもかかわらず、いたずらにサイドからクロスを放り込んだために、ユナイテッドはチャンスメイクの回数そのものが減少。クロスの本数こそ上回ったものの(シティの657本に対して821本)、シュート数は、シティの510本に対して396本に留まっている。
ユナイテッド再建への第一歩。
時代に逆行する形で退化したウイングサッカーを、本来の姿に戻す。これが来シーズンのユナイテッドが着手すべき、チーム再建の第一歩となる。
その意味において、ファンハールほどの適任者はない。彼はウイングを重視するオランダサッカーの伝統、そしてトータルフットボールの流儀に則り、アヤックス時代には3-4-3を駆使してCLを制覇。その功績が認められてバルサの監督に就任した後は、4-3-3などを使いながら、ウイングを重視した攻撃サッカーを一貫して追求してきたからだ。