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ファンハールはマンUをどう変える?
ウイング、確率論、そして香川真司。
text by
田邊雅之Masayuki Tanabe
photograph byGetty Images
posted2014/05/20 11:10
現在はオランダ代表を率い、ブラジルW杯への準備を進めているファンハール。今大会後の退任が確定したわけだが、母国にどんな置き土産を残すのだろうか。
ファンハールはウイングサッカーを正常進化させる。
たしかにファンハールは、バルサ時代にはCLのタイトルとは無縁だった。またオランダ人選手を重用しすぎたことや、あまりにも戦術のドグマにこだわり、チームの内紛を招いたのも事実である。
だがフィーゴ、クライファート、そしてリバウドの三羽烏がかみあった時のサッカーは、精密機械のごとき機能美と、多彩な攻撃のアイディア、そして個と組織の見事なバランスに満ちていた。'98-'99シーズン、カンプノウでレアル・マドリーに3-0で完勝した試合などは、今も鮮明に脳裏に焼き付いている。
当時のチームでタクトを揮っていたのがペップ・グアルディオラだが、ファンハールは師匠のヨハン・クライフや、同門の後輩に当たるグアルディオラ同様、ウイングサッカーのイデオローグとして、現代サッカー界における「教祖(グル)」的な存在になってきた。
ファンハールの監督就任がもたらすのは、ファーガソン時代の確率論的サッカーへの単純回帰ではない。バスケットの3ポイントシュートとレイアップシュートの関係をイメージしてもらえばわかりやすいが、ウイングを使ったサイド攻撃を機能させていくためには、ピッチ中央やバイタルエリアの正面における、練度の高いパスワークやコンビネーションは不可欠になる。これこそがファーガソンが目指していた次なる一手、すなわちファンハールの元で追求されるであろう、ウイングサッカーの正常進化だ。
守備におけるファンハール効果。
ファンハールの起用は、攻撃の活性化以外の恩恵ももたらす。
1997年にバルサの監督に就任した当時、ファンハールは各選手のポジショニングと、守るべきエリア(勢力圏)を厳密に規定した。これはバルサの守備を大きく進化させるのに貢献した。
史上最強を誇ったグアルディオラ時代のバルサでは、いわゆる「5秒ルール」が有名になったが、これもまたファンハールが植え付けたディシプリンを基盤にしている。『知られざるペップ・グアルディオラ』の著者グイレム・バラゲは、5秒ルールの由来について語っている。「(グアルディオラが採用した)単純明快な方針は、ファン・ハールから受け継いだものだった」
プレッシングと効果的なオフェンスは、不可分に結びついている。モイーズ指揮下のユナイテッドでは、プレスがまるでかからず、自陣のバイタルに簡単に楔を入れられるケースが目についた。トータルフットボールの信奉者であるファンハールの監督就任が、ユナイテッドの守備の再建にも寄与するのは間違いない。