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ファンハールはマンUをどう変える?
ウイング、確率論、そして香川真司。
posted2014/05/20 11:10
text by
田邊雅之Masayuki Tanabe
photograph by
Getty Images
紺色のジャケットに赤いネクタイ姿のライアン・ギグスが、眉間に皺を寄せながら戦況を見守る。隣にはトラックスーツに身を包んだニッキー・バット、ポール・スコールズが鎮座し、ベンチの一番左側にはフィル・ネヴィルが座る。
ドキュメンタリー映画「クラス・オブ・92」さながら、ユナイテッドで一時代を築き上げたメンバーがベンチに並ぶ姿には、独特の華と趣がある。
しかし「ファーガソンの雛子たち」が、ベンチに揃うシーンはしばらくおあずけになりそうだ。5月19日、赤い悪魔の次なる指揮官に、現オランダ代表監督のルイ・ファンハールが就任することが正式決定したからである。
契約期間は3年間。監督就任の会見で、ファンハールは次のようにコメントしている。
「私はプレミアリーグで監督をしてみたいとずっと願ってきた。
マンチェスター・ユナイテッドで監督として働く、世界で最も大きなクラブの監督を務めることに、非常に誇りを感じている。
私はオールド・トラッフォードで試合を指揮したことがある。オールド・トラッフォードの素晴らしさ、そしてファンがいかに情熱的でサッカーに詳しいかは知っている。クラブは大きな目標を掲げているし、私も大きな野望を抱いている。一緒に組めば、我々は歴史を作れるはずだ」
「一流ブランド」としてのファンハール。
個人的に、ファンハールの監督就任は悪い話ではないと思う。
ギグスの監督姿に後ろ髪をひかれる気持ちはもちろんある。現役引退を発表しただけになおさらだ。
だが仮に専業監督になっていたとしても、いきなりユナイテッドを率いるのは荷が重い。ジャンルカ・ヴィアリが述べるように、ヨーロッパの他国に比して、イングランドの場合は、経験の浅い人間にいきなりクラブを任せる傾向が強いとしてもである。ギグス自身がファンハールのアシスタントとして修行を積む道を選んだのは、ユナイテッドを率いていく難しさを、誰よりも知っていればこそだろう。
その意味でも、ファンハールのような人物を次期監督に据えるのは理に適っている。アヤックス時代にはCLを制し、バルセロナの監督も2度経験。バイエルンやオランダ代表も率いてきた彼は、経験の豊かさでは折り紙付きだ。選手や監督の「ブランド」にこだわるユナイテッドのサポーターも、ファンハールなら自尊心を満たすことができる。