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第2戦マレーシアGPで珍事が発生。
伝統を破ったチームとマッサの意地。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byHiroshi Kaneko
posted2014/04/05 10:30
レース序盤でマクラーレンのケビン・マグヌッセン(右)を追撃するウイリアムズのマッサ(左)とボッタス(中央手前)。このときは、マッサを抜かないようボッタスにチームオーダーが出され、ボッタスは「僕のほうが速いのに!」と不満を募らせながらも戦略に従った。しかし、終盤に出されたチームオーダーをマッサが守ることはなかった。
チームオーダーを無視し、優勝したベッテル。
勝利の見込みがなかった3番手と4番手を走行していたメルセデスAMGの2台はチームオーダーを守ったが、トップ争いを繰り広げていたレッドブル勢はそうはいかなかった。2番手のセバスチャン・ベッテルがチームオーダーを無視する形でチームメートのマーク・ウェバーからトップの座を奪って優勝したのである。結果的にレッドブルは1-2フィニッシュを飾ったものの、表彰台に笑顔はなかった。
そして、歴史は繰り返される。今年、マレーシアGPでチームオーダーを行なったのは、ウイリアムズだった。チームは、ひとつでも前のポジションを奪うために、ペースが速いと判断したバルテリ・ボッタスを、チームメートのフェリペ・マッサの前に出そうとしたのである。
その戦いは優勝争いでもなければ、表彰台争いから遠く離れた6位というポジションを狙って行なわれていたにも関わらず、レース後、多くのメディアがウイリアムズの2人に注目した。それは、このチームオーダーで2つのことが破られたからである。
ウイリアムズの有名な伝統は失われてしまった。
ひとつは、チームオーダーを採用しないという伝統をウイリアムズが破ったことだった。
ウイリアムズがチームオーダーを行なわないという歴史は、F1界では有名である。古くは'81年のアラン・ジョーンズとカルロス・ロイテマンから始まっている。最終戦でロイテマンがタイトルに王手をかけていたにも関わらず、ウイリアムズはチームオーダーを出さず、チームメートながら犬猿の仲だったジョーンズもいっさいのサポートも行なわなかったため、ネルソン・ピケに逆転で王座を奪われてしまった。
その後も'86年と'87年のナイジェル・マンセルとピケや、'96年のデーモン・ヒルとジャック・ビルヌーブなど、チームオーダーを出していれば、タイトル争いが有利に運ぶというケースでも、ウイリアムズは絶対に出さなかった。
それはつい先日まで変わらず続いていた。昨年、私はチームマネージャーのディッキー・スタンフォードに「いまでもウイリアムズはチームオーダーを出さないという伝統を守っているんですか?」と尋ねたことがある。すると、スタンフォードは「たとえタイトルを失っても、ウチは絶対にやらない」と即答したものである。