スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
凋落のベティスと復活のセビージャ。
セビリアダービーの天国と地獄。
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byMARCA MEDIA/AFLO
posted2014/03/27 10:30
3月20日のセビリアダービー、PK戦で決着がついた瞬間にセビージャは歓喜に湧き、ベティスは絶望に包まれた。
セビージャもシーズン途中での方向転換へ。
一方のセビージャも、シーズン序盤の出遅れはベティス以上のものだった。
過去数年に続いてネグレド、ヘスス・ナバスら主力選手の引き抜きを受けた今季、ウナイ・エメリ監督は攻撃の中心であるラキティッチをピボーテに固定し、その前方に4人のアタッカーを並べる攻撃的布陣をベースとしたチーム作りを推し進めてきた。
だが指揮官が描く青写真とは裏腹に、チームは1試合平均2失点以上を献上する守備が一向に安定しないだけでなく、攻めてもセットプレー以外にチャンスを作れない本末転倒な状況に陥ってしまう。結局エメリは自身のポストが危ぶまれてきた11月にラキティッチをトップ下に上げ、守備的なピボーテを2枚起用するバランス重視の布陣への変更を決意した。
その後、チームはロングボールとカウンターを多用するリスク回避を優先したプレーで結果を出しはじめたものの、いまだその試合内容は指揮官の理想はもちろん、ファンや地元メディアを納得させることもできていない。
指揮官にとって厄介な「EUROダービー」。
そんな状況下で迎えた史上初の「EUROダービー」。組み合わせが決まった際には、恐らく両監督とも頭を抱えたことだろう。心身共に多大な消耗を強いられる宿敵との2試合は、間違いなく前後の国内リーグに影響を及ぼす。しかも敗退した場合に負う精神的なダメージは計り知れないのだから、これほど厄介な試合はない。
特に残留争いの渦中にあるベティスは、主力の数人を温存したところで誰も文句は言わなかったはずだが、カルデロンは1人として温存することなく現状のベストメンバーを送り出した。そうでなければ、戦力的に上回るセビージャをあと一歩まで追いつめることも、敵地での先勝によってファンにひと時の幸福を提供することもできなかっただろう。