フットボール“新語録”BACK NUMBER
「ペップは常に選手を楽しませる」
バイエルンの“面白い”練習の秘密。
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph byAFLO
posted2014/03/03 10:50
練習を指揮するグアルディオラ監督。リーグ最大のライバルであるドルトムントのクロップに「同じリーグにいることが不運だ」と言わせるほど、圧倒的な力を見せ付けている。
グアルディオラの攻撃に関する指示はいつも共通。
グアルディオラの攻撃に関する指示は、どのメニューでも共通である。パススピードを上げ、正確さを大切にし、広い視野を持って長いパスも忘れない。この練習では特にサイドチェンジと縦に速くボールを運ぶ意識を求めた。
より興味深いのは、守備に関する指示である。
このメニューではDFがいないため、攻めているときに相手の攻撃に備えて誰かが準備しておかないと、簡単にカウンターが成功してしまう。3人のMFが互いに位置を確かめ合いながら、中盤のバランスを取ることが求められた。
これは試合でもよく起こるシチュエーションである。
バイエルンは後方にセンターバックのダンテとボアテンクのみを残し、フィールドプレイヤー8人で攻めるのが基本だ。通常のチームでは考えられないほど前に重心がかかっており、カウンターを防ぐためには“6番”のラームや“8番”のクロースがボールロスト時にすばやくスペースをカバーしなければならない。その感覚を磨けるのが、この「DFを置かない」メニューなのだ。
攻撃側の精度が、さらに守備側のプレスを鍛える。
攻撃から守備への切り替えは、グアルディオラのサッカーにおいて極めて重要である。だから次のようなメニューも用意されている。
フィールドプレイヤーのみの5対5のゲームで、ピッチのサイズは全体の3分の1。時間は10分×2本。メンバーの例をあげると、「リベリー、ゲッツェ、シュバインシュタイガー、アラバ、グリーン」×「ハビ・マルティネス、ダンテ、チアゴ、ミュラー、シャキリ」だ。
攻撃において、パスの速さと正確さをいつも通り大切にしつつ、同時にペップは「斜めのパス」を強調した。
そして、この練習の最大の狙いは、ボールを失った瞬間にある。グアルディオラはできるだけ早くボールを奪い返すことを強く求めた。さぼることは許されず、全員でボールと相手に襲いかかる。
斜めのパスを強調したのは、逆に攻撃側がこのプレスをかいくぐるためなのだろう。かいくぐる方の精度が上がれば、当然、守備側のプレスも鍛えられる。
先のメニューでは、中盤後方のバランスの大切さに触れたが、それだけではカウンターを防ぐことができない。同時に前線において、ボールを奪い返すためのアクションが不可欠だ。