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<女子柔道、暴力・パワハラ問題から1年> 溝口紀子 「柔道の男社会に対峙した個としての女性たち」
text by
木村元彦Yukihiko Kimura
photograph byAsami Enomoto
posted2014/03/10 11:00
IJFは会長のイエスマンだらけ。女性理事もゼロ。
「ええ、改革が必要なのはIJFも同様です。IJFは、全柔連をそのまま国際競技団体にしたようなところです。女性理事もいないし、その理事選出も半数以上が選挙でなくて、会長の指名で決められています。自分の意を汲む人だけを入れて周りをイエスマンで固めているから評決も形骸化しています。それとライセンスビジネス、放映権で稼ごうという考えから、商業主義に走って柔道そのものがないがしろにされている。選手を商品として扱い、消費し、その結果消耗してしまった。柔道というのは思考の格闘技であるから、メンタルとか規範、礼節を守らなければいけない。しかし、IJFや全柔連はガバナンスができなくて、コンプライアンス精神が欠如している、だから本末転倒なんです」
昨年6月に来日し、去就が注目されていた上村春樹前全柔連会長を擁護する演説を続けたIJFの現会長であるマリウス・ビゼールは柔道の商業化を一気に進めた人物として知られる。代表的なのが、五輪出場権とリンクさせたランキング制の導入と、国際大会の放映権をIJFが一括管理して高額な値段で売るという放映権ビジネスである。
これの最大のクライアントは日本のフジテレビで、ビゼールと上村の蜜月関係の要因をここに見ることができる(上村の子息はフジテレビ社員である)。ランキング制は有名選手が多くの大会に毎回出場することで番組コンテンツとしての価値を上げたが、選手はそのための過密日程で疲弊し、大きくコンディションを崩した。
男の村社会では、男たちも被害者である。
「テレビの放送時間に合わせて、試合を開始してライブで見せるというのは譲歩するとしても、テレビ局の要請で五輪代表発表の場に選手を呼んで天国と地獄のその瞬間の表情を撮影させるというのは、もう見世物会見そのままです。落選して落ち込んでいる選手のことも考えず全くリスペクトが無い。体罰や暴言、過密日程、商品と見なされることで、(告発した15人の)彼女たちの行動はずーっと我慢を続けて来たことの最後の悲鳴であったと思います。負けた原因としてはそのことに触れず、『根性なかったから、追い込んだ練習しなかったから』と必ず言うんですが、追い込んだ練習ってなんですか? 『心拍数どれくらい?』そういうエビデンスがあって、追い込んだ練習という定義が初めてできるんじゃないですか。でもそうすると『お前生意気だ』で終わってしまうんです。
私は決してフェミニストでもないんですよ。そうではなくて、柔道そのものが男の村社会で男たちが逆に被害者で可哀想なんですよ。私たち女は村の外に置かれていますから、立ち上がる勇気を持てたんですが、男子はそうではないんですね。強化のために当てられた助成金や選手の賞金を幹部がくすねて飲食に使っていた。そういう感覚は俺たちが伝統を守ってやってる、選手を育ててやったんだからいいじゃないかという男の村社会の論理、勘違いから出て来たと思いますね」