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<女子柔道、暴力・パワハラ問題から1年> 溝口紀子 「柔道の男社会に対峙した個としての女性たち」
text by
木村元彦Yukihiko Kimura
photograph byAsami Enomoto
posted2014/03/10 11:00
体質が表面化した日本柔道界の改革が始まろうとしている。
その特殊な村社会にメスを入れたのも女性たちだった――。
1年前、柔道界の不祥事が次々と表面化しました。その後、溝口紀子氏らが
取り組む組織改革を追ったNumber847号のインタビューを全文公開します。
女子日本代表選手への暴力指導や暴言、6055万円にも及んだ助成金の組織ぐるみの不正受給、さらにはそれを幹部の飲食費用などに当てた目的外使用、あげくは現職全柔連理事による女性へのわいせつ行為、2013年は春先から柔道界の不祥事が続々と表面化した。膿が出たとされる年が明けた。問題はどこにあったのか、社会的な信頼が地に落ちた組織の改革は上手く行っているのか。
全柔連の抱える組織的な問題に早くから警鐘を鳴らしていた人物がいる。バルセロナ五輪銀メダリストの溝口紀子である。フランス代表チームも指導した溝口は豊富な国際経験からジェンダー(性差問題)を論ずる気鋭の社会学者でもある。一時はセクハラ被害を受けた選手たちの駆け込み寺になっていたという彼女に話を聞いた。
日本柔道は家元ということであぐらをかいていた。
――昨年8月にブラジルで行なわれた世界選手権でコソボ出身のマイリンダ・ケルメンディが52kg級で優勝しました。私はあの地域の紛争を'90年代からずっと追ってきたので感慨深いのですが、スポーツどころではなかった戦場から柔道の世界チャンピオンが生まれた。翻って本家日本の柔道界は大きな汚点を残し続け、同大会で結果も出せなかった。
「そうですね。日本の女子は練習で追い込めなかったのが(金メダル0の)敗因だと言われましたが、畳の上で追い込むだけが練習ではないんです。コソボのケルメンディのほうがよっぽど練習時間は短いし、乱取りの相手もいないわけです。そんな劣悪な練習環境でも勝っている。その方法が何かというところを我々は小国から逆に学んで科学の言葉で言わなきゃいけないのにそれをしていない。日本は家元ということであぐらをかいていたことが、ロンドンで金メダルが男子ではゼロになったし、幾つかの不祥事もそれと同じような構造の中で起こっています。
―― 一方で今、言われた不祥事ですが、根源を探ると、構造的な問題として、実は現在のIJF(国際柔道連盟)の在り方、その方針に行き着きますね。そこも可視化しないといけない。