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<女子柔道、暴力・パワハラ問題から1年> 溝口紀子 「柔道の男社会に対峙した個としての女性たち」 

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木村元彦

木村元彦Yukihiko Kimura

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photograph byAsami Enomoto

posted2014/03/10 11:00

<女子柔道、暴力・パワハラ問題から1年> 溝口紀子 「柔道の男社会に対峙した個としての女性たち」<Number Web> photograph by Asami Enomoto

日本では「溝口先生」だけど、フランスでは「NORIKO」。

――日本と相対化する意味でフランスでの指導を教えていただきたいのですが。日本のような暴力指導は存在しないのでしょうか。

「指導を受ける側の意識がまず異なります。例えば『回し』という稽古があります。1人の選手に次々と大勢の選手が挑みます。それを傍から見るといじめですよね。でもフランスでも回し稽古やるんですよ。(テディ・)リネールが強すぎるので、5人1分がけでやればすごく強度が上がるんです。そうすると回し稽古もちゃんと科学的なエビデンスを持って効果が出るんです。

 フランスの選手も最初は『なんだこの練習は?』とか言うのですが、『いや、これはいじめではなくて、ちゃんと心拍数を上げて、強度も上がる練習なんだよ』と答えると納得する。でも日本選手は、『しごきだ、ありがたく受け入れよう』となってそこから先に踏み込めないし、質問するにも上にモノ申すのかという徒弟関係にあるので目的が分からないままに練習だけするということになる。フランスは児童虐待などの暴力に対して、社会科学の思想がすごく進んでいるところなので選手とコーチは同権です。だからコーチが殴ったら、法の裁きを受けます。

 私は日本では、銀メダリストで、溝口先生と呼んでくれますけど、フランスだといきなり『NORIKO』ですからね。残念なことは、日本のコーチが自分たちの指導力のなさをあからさまにしていることにさえ、気付いていないことです。海外の大会などでは『日本のコーチは大丈夫かよ、選手を殴っているよ』とか言って見られているわけですから」

段位制度と徒弟制度で、高段者にモノが言えない。

―― 一連の不祥事を見ていて醜悪だと思うのは、まさにパワーハラスメントで、あらがうことができない人たちに対しては殴ったり、暴言を吐いて抑えつけておきながら、本来守るべき選手たちに対して圧力をかけてくるIJFのプレッシャーに対しては唯々諾々と従って、選手がいかに疲れていても大会に差し出してしまう。内部から声を上げて変革をすることはなかなか困難だったのでしょうか。

「それは柔道に段位制度があるからなんです。我々は皆、ピラミッドの中にいます。上村さんは9段ですよね。段位制度と徒弟制度で高段者をみんな尊敬しなきゃいけない。頭じゃなくて柔道の実力主義なんです。だから頭脳明晰な人でも、『お前何段なの、実績あるの?』って。実績なければ排除されちゃうような特殊な構造の中でモノが言えなくなっているんです」

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