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<女子柔道、暴力・パワハラ問題から1年> 溝口紀子 「柔道の男社会に対峙した個としての女性たち」
text by
木村元彦Yukihiko Kimura
photograph byAsami Enomoto
posted2014/03/10 11:00
「柔道の問題は今、どうなっているの。報告書ある?」
しばらくするとメールが入り、GWに中央合同庁舎でのミーティングが実現した。片山は説明を受け、不祥事に関する資料に目を通すと、役人を呼びつけ「この柔道の問題は今、どうなっているの。報告書ある?」と詰問した。全柔連から上がってきている報告書との間にはあまりに大きな齟齬が生じていた。一回事件が起こる度に報告書を出すようにしていたが、やはり、記述は手ぬるく、暴力問題については「0~2名」と曖昧な表現になっていた。そこに片山がメスを入れた。
内閣府が全柔連に指導勧告したことをモスクワ五輪ボイコットと同様に政治がスポーツに介入したとネガティブに捉える論調が一部にあるようだが、あまりに浅薄な意見である。
これは公益法人としてのガバナンスの問題で自浄作用が無いことを見越しての指導である。米国による圧力で五輪をボイコットさせられた事件とは本質が異なる。
「パワハラ体質根絶のはけ口がメディアになっている」
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――上村会長が辞めて、宗岡正二さんが新しく会長になられてから半年、柔道界はどのように改革を遂げていると感じていますか。
「上村さんが辞めてから、パワハラ体質をセクハラも含めて声を上げて根絶しようという動きが出てきた。だけど、そのはけ口がメディアになっているんです。私はそれはまずいと思います。そういう駆け込み寺を作って欲しいと言ったら予算がついてスポーツ法学会で3月まで暫定的に『スポーツ指導における暴力相談窓口』というものが開かれることになりました。こういうものを利用してもらいながら、内部からも変えていかないといけないですね」
全柔連は組織改革として1月31日にそれまでの評議員53人を総辞職させ、新たに30人を選定した。その中には溝口の名前もあった。まさに全柔連の中からの改革を期待されての抜擢であろう。今後も注目していきたい。