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渡部暁斗、20年の雌伏を破る銀。
複合界の悲願はいかに実現したか。 

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松原孝臣

松原孝臣Takaomi Matsubara

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photograph byAsami Enomoto/JMPA

posted2014/02/13 11:30

渡部暁斗、20年の雌伏を破る銀。複合界の悲願はいかに実現したか。<Number Web> photograph by Asami Enomoto/JMPA

金メダルのエリック・フレンツェルに最後まで肉薄し、銀メダルを獲得した渡部暁斗。リレハンメル以来20年ぶりのメダル獲得は、ノルディック界の悲願だった。

「僕らしいんじゃないですかね」

 2位という結果に対し、朗らかに笑いながらそう口にした。

 ノルディック複合の渡部暁斗は、3度目のオリンピックで念願のメダルを手にした。

 渡部の銀メダルの要因は、まずはジャンプが完璧であったことだ。100.5mの130点で2位につけ、首位のエリック・フレンツェル(ドイツ)と6秒差で後半のクロスカントリーのスタートを切ることができた。その時点で、表彰台は手堅いものとなった。

 そしてクロスカントリーを迎える。

 スタートして1.5km、渡部はフレンツェルをかわし、トップに立つ。

 実はスタート前、渡部はフレンツェルと相談していたと明かす。

「一緒に逃げよう」

 お互いに競う相手であるのに相談するとはユニークだが、両者には、まずは後ろから追いかけてくる選手たちに追いつき追い越されないようにし、その上で、最後、雌雄を決する思惑があった。だから、互いに先頭に立つことで、風による消耗を避ける展開が見られた。

早めのスパート、銀メダル、そして笑顔。

 だが、いつまでもそうしてはいられない。渡部が勝負をかけたのは、おおよそ、残り1km近くになってからだ。前に立つと、一気にスパートをかける。

「最後までもつれこんだらエリックの方が強いので」

 そう警戒するフレンツェルに勝つために、早めに仕掛けたのだ。

 しかし、今シーズンのワールドカップで圧倒的な強さを見せるフレンツェルは強かった。フレンツェルは会場に入る前に渡部を抜くと、そのままトップでゴール。

 続いてゴールし銀メダルを得た渡部は、笑顔でガッツポーズを見せた。

 何よりも、メダルを手にすることができたのが大きかった。

「これでようやく、翼が広げられるというか。メダルが取れずに発言しても、ただの負け犬の遠吠えなので。ワールドカップの方がレベルが高いと言っても、オリンピックのメダルがなければ、そんなことはないだろう、と言われるかもしれません」

【次ページ】 認知してもらうには、五輪での活躍しかなかった。

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