スポーツ・インサイドアウトBACK NUMBER
無駄マッチョと野球のスリル。
~本塁ブロックがMLBで禁止へ~
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph byAP/AFLO
posted2014/01/11 08:11
前年に新人王を受賞し、気鋭の若手捕手だったポージーがカズンズのタックルで吹き飛んだ。このプレーで2011年シーズンは欠場を余儀なくされ、選手生命も危ぶまれるほどだった。
マッチョ・ナンセンスという英語がある。筋肉バカと訳すよりも、無駄マッチョとか蛮勇とか訳したい言葉だ。
この単語は、2013年春あたりからアメリカの新聞でしばしば見かけるようになった。どこで見かけるかというと、捕手が本塁をブロックで死守し、走者が無理を承知でそこに突入する場合だ。具体的には《野球と格闘技を一緒にしないでほしい。ここで体当たりを褒めそやすのは、マッチョ・ナンセンス以外の何物でもない》というような使われ方。
異議なし、である。むしろ、ようやくコンセンサスが形成されてきたか、というのが私の感想だ。以前から私は、ホームプレート上の激突に疑問を抱いていた。
ごく基本的なことをいうと、野球は球技である。ただ、使われるボールそのものが凶器にひとしい競技は、なかなか他に見当たらない。まあ、ゴルフやアイスホッケーやポロなど、球やパックがそれなりに危険なゲームはないわけではないのだが。
とにかく、野球というゲームは肉体の直接的コンタクトを前提としていない。アメリカンフットボールやラグビーやホッケーでは肉体の衝突は自明の前提だが、野球の場合は本来「偶然の衝突」しか想定していない。一例は、飛球を追った野手のごっつんこ。
ところが、本塁をブロックする捕手は否応なく激突の危険にさらされる。恐れを知らぬ人間要塞といえば聞こえはよいかもしれないが、問題は返送されてくるボールに気を取られ、砲弾のように突っ込んでくる走者に対して体勢を整えられないところにある。
捕手の装備は、100キロ超の大男の体当たりを防げない。
そのために、捕手は重装備をしているのではないか。そんな声は以前からあった。ただ、これは詭弁に近い。捕手の装備は、時速150キロ以上で投げ込まれるボールやファウルボールから身を守るためのものだ。体重100キロ超の大男が全力で突入してくるのを防ぐようには作られていない。
その証拠に、捕手の怪我人は跡を絶たない。近いところでは、2011年にジャイアンツの捕手バスター・ポージーがスコット・カズンズ(当事マーリンズ)の体当たりを受けて左脚を骨折したケースがある。
あのときの写真は、私もよく覚えている。カズンズに当たられたポージーは、後頭部を支点に海老反りとなり、左脚を奇妙な形に捻じ曲げていた。その結果、彼は骨折のみならず足首の靭帯まで断裂し、その年の大半を棒に振ってしまったのだった。