ゴルフボールの転がる先BACK NUMBER
9の名言で振り返る’13年男子ツアー。
「濃い」言葉が、ゴルフの魅力の1つ。
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph byYUTAKA/AFLO SPORT
posted2014/01/02 08:01
2013年の日本男子ゴルフを締めくくったのは、宮里優作。妹の宮里藍と両親が見守るなかで成し遂げた、プロ11年目での悲願の初優勝に会場中が盛り上がった。
世界の青木を泣かせた、宮里優作の初勝利。
●11月 松山英樹 「一年間、ありがとうございました! あ、まだ終わってないか」
スーパールーキーは、最後まで強かった。11月末のカシオワールドオープンで年間4勝目を飾り、賞金王を戴冠した。国内13試合、海外メジャー3試合の出場だけでタイトルを獲得。満身創痍の体にムチを打ち、走り抜けた1年。全国放送されたテレビインタビューでは、安堵のあまり翌週の最終戦のことが一瞬、頭から抜け落ちてしまったのだろう。
それほど、松山はボロボロだった。翌週の日本シリーズ以降、対抗戦を含めた3試合はすべて欠場。1月のソニーオープンを万全な状態で迎えられるかは依然不透明だ。
今後、主戦場となる米ツアーでは連戦と、それに伴う長距離移動をまた繰り返すことになる。これまでは在籍する東北福祉大の阿部靖彦監督が、無理をしがちな21歳の心のブレーキを踏む大きな存在だった。しかし3月には卒業し、いよいよ独り立ちしなければならない。“自立”は、プロ2年目のひとつのテーマになる。
●12月 宮里優作 「100回勝っても500回以上は負ける。負けることは時に大切だと思えた」
こんな結末を誰が想像しただろう。12月の日本シリーズJTカップ最終日。宮里家の二男が、最終ホールで劇的なチップインパーを決めて初白星を手にした。
プロ転向から11年。アマ時代の活躍を受け、周囲からの期待が大きかっただけに、誰よりも強い「勝利」への思いは空回りを続けた。先輩、そして後輩たちはいとも簡単に勝ち星を重ねるように見えた。「永久シードの人や、ジャンボさんはこんなことを25回も、100回もやっている。いったいどうやって……」。しかし青木功の合宿に参加した数年前から「でもその分、(彼らも)負けているんです。この場にいて、チャンスを待つことが必要」と思えるようになった。
「結果が出ないのに努力を積み重ねるのは難しい。自分と向き合う勇気を持っていて、人としても、兄としても尊敬します」と目を腫らして誇らしげに言ったのは妹の宮里藍。
テレビ解説していた丸山茂樹は、明らかに声が上ずっていた。そして隣で青木の「えへへぇ……もらい泣き、しちゃったよぉ……」というコメントは電波に乗って全国へ届けられた。時間を共有したすべての人が、その言葉に頷いたはずだ。
ゴルフはプレーする“グラウンド”も大きく、出場選手の数が多いため、野球やサッカーのように、ファンがすべてのプレーを目撃することができない。ギャラリーもメディアも、その魅力を味わうためには選手の言葉に頼るところが大きいスポーツだ。
だからこそゴルファーたちの珠玉のコメントは、ツアーも盛り上げるためには必要不可欠な要素。誰もが雄弁である必要はないけれど、苦労や喜びがギュッと詰まったひとことを、今年もたくさん聞きたい。