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<アフリカ最強国、新指揮官との歩み> コートジボワール 「ドログバを本気にさせた男」
text by
マーク・グリーソンMark Gleeson
photograph byGetty Images
posted2013/12/13 06:01
就任後の6試合は4勝2分けと結果を出したが……。
当然、経験のない青年監督への風当たりは強く、人々の視線は懐疑的というよりも攻撃的と表現すべきものだった。元レ・ブルーの肩書きや現役時代に欧州で獲得したタイトルは、国内のファンにとって畏敬の対象にならず、愛する代表チームがどこかの馬の骨に託されてしまったと憤慨する者もいたほどだ。
また地元出身の前任者ザウイが一定の成果を収めていたことも逆風となった。CANでは決勝を含めて6試合を戦い、PK戦以外では一度も負けなかっただけでなく、失点もゼロ。それでも最後は敗者となり、同国史上2度目の国際タイトルの獲得に失敗したことで、協会は指揮官の交代に踏み切ったわけだが、これに納得しない人は少なくなかった。
W杯予選の初戦を5日後に控えたなかで新たな仕事を引き受けたラムシは、騒々しい記者団に向かってこう言い放った。「あなたがたの不安は理解できる。しかし、ジャッジはピッチ上のパフォーマンスで下してほしい」
そのラムシは初采配となったタンザニア戦で白星スタートを切ると、続く敵地でのモロッコ戦をドローで切り抜ける。さらに、暴動に発展したダカールでのセネガル戦の勝利を含めて、'12年は6試合で4勝2分けと無敗を維持。自らの言葉通り、結果によって敬意と評価を勝ち取っていき、ディディエ・ドログバやトゥーレ兄弟らチームの重鎮にも自身の哲学を浸透させていった。
ドログバらを控えに回したアフリカ選手権での挫折。
そして迎えた'13年のCANで、コートジボワールはまたも優勝候補の筆頭に推される。自らの手腕に自信を深めつつあったラムシは、中国でフォームを崩していたドログバをベンチに座らせたり、不用意なミスの多いコロ・トゥーレを外したりと、世代交代を見据えて大鉈を振るうこともあった。これらはチームの成績だけでなく、指揮官の進退にも影響を及ぼすギャンブルとも言えたが、集団は見事に機能し、グループステージを悠々と首位通過。この時は、すべてが正しい方向へ進んでいるように見えた。
ところが、決勝トーナメント1回戦で、後にこの大会を制するナイジェリアに競り負けてしまう。「エレファンツ」が優勝候補の最右翼に挙げられながらアフリカ王座を逃したのは、これで5大会連続のこと。肝心なところで勝負弱さを露呈することから、チームは“チョーカーズ”(自らの首を絞める者たち)のレッテルさえ貼られてしまう。ラムシは指揮官として最初の大きな挫折を味わったのだった。