フィギュアスケート、氷上の華BACK NUMBER
3連覇の世界王者を下した羽生結弦。
圧倒的演技でソチ五輪へ大きく前進!
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph byAsami Enomoto
posted2013/12/09 11:15
12月21日から始まる全日本選手権で正式なソチ五輪代表は決まる。ファイナルで優勝した羽生は、うまくピーキングのコントロールができるかが鍵となる。
新品の靴で挑んだ織田信成。
ベテランらしいまとまった演技で、SP、フリーともに3位に留まったのは織田信成だった。
もともとファイナル進出では順位7位で補欠だったが、負傷した高橋大輔の欠場で、急遽出場となったのである。
直前に靴が壊れて新品の靴で挑むという厳しい条件でも表彰台に上がったことが、代表争いの自信につながったか、と聞かれると織田はこう答えた。
「今まで生きていた中で、自信満々という瞬間はあまりなかったと思います。だから自分の中で、あまりわかんないんですよ。でも昨シーズン、全日本で世界選手権の代表に選ばれなくて、もっと強い気持ちで臨まなくてはならないと思った。今でもやっぱりなるべくあの時の悔しい気持ちを思い出して練習に臨むようにしています」
ところで、と織田は一瞬真面目な顔になってこう言った。
「一つ、訂正しておきたいことがあります」
記者たちはみんな、何だろうかと静まり返った。
「ぼくが食べたかったのは、ハイチュウではなくてラーメンでした。福岡にいることをすっかり忘れてしまっていて……」
前日の演技後、「普段我慢しているお菓子を解禁した」と口にしたことが、新聞記事で予想外に大きく報道されていた。
記者たちの好意的な笑い声に包まれながら、織田は恥ずかしそうに苦笑していた。
「雑念が入った」と町田樹。
今回、GPシリーズで2試合連覇して日本男子の中で最高の成績でファイナルに進出した町田樹は、総合4位に終わった。SPでの4回転を失敗したことが、大きく響いた結果だった。
「今思い返すと、SPでは他者を気にしてしまって雑念が入っていました」
翌日の取材に応えて、町田はそう口にした。今年のプログラム、SPの「エデンの東」とフリー「火の鳥」は、彼にとって特別な思い入れのある作品である。
「全身全霊で演じるだけだと思わないと、理想とする滑りはできない。ミスを許されないと思うのではなく、この作品との出会いに感謝して滑りたいと思います」
そう語った町田がどのように全日本選手権で立て直してくるのか、楽しみである。
ソチ五輪代表争いは、これで羽生結弦が一歩抜き出た形になった。2週間後の全日本選手権では彼と、織田信成、町田樹、小塚崇彦、無良崇人、そして負傷でファイナルを欠場した高橋大輔らが、ソチ五輪代表枠を巡って戦うことになる。日本男子にとって、まだまだ過酷な戦いは続いていく。