フィギュアスケート、氷上の華BACK NUMBER
3連覇の世界王者を下した羽生結弦。
圧倒的演技でソチ五輪へ大きく前進!
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph byAsami Enomoto
posted2013/12/09 11:15
12月21日から始まる全日本選手権で正式なソチ五輪代表は決まる。ファイナルで優勝した羽生は、うまくピーキングのコントロールができるかが鍵となる。
驚くほどの高評価は「期待点と受け止めている」。
だがフリーでは、さらなる驚きが待っていた。
決勝のあった12月6日は、羽生の18歳最後の日でもあった。
羽生は「ロミオとジュリエット」のフリーで、193.41という高得点を出し、トップを保ったまま優勝を果たした。もっとも内容は、決して彼のベストな演技ではなかった。冒頭の4サルコウで転倒し、最後のスピンはバランスを崩しかけてレベル1となった。
「最初の4サルコウの転倒で、かなり体力的にきつくて、特に後半はあまり滑っていなかった。自分の中では(100点満点中)75点くらい。(あれだけの点が出たことに)正直、戸惑いはあります」羽生は、翌日の囲み会見でそう語った。
日本男子として昨年の高橋大輔に次ぐ2人目の快挙を成し遂げたというのに、手放しで喜ぶ、という様子はなかった。
「これだけの評価をいただいたことを期待点と受け止めて、これからもっともっと頑張りたいです」神妙な顔で、羽生はそう口にした。
ノーミスでも羽生に敗れた世界王者チャン。
一方チャンは、2度の4トウループを含むノーミスの素晴らしい演技だった。だがフリーでも192.61とわずかに羽生に及ばないスコアで、総合2位に終わった。これまでの大会だったら、この日のチャンの演技で楽に逆転優勝が出来たはずだった。
「これまでぼくはSPで引き離して、フリーでは失敗しても逃げ切って勝つというパターンが多かった。だからここではフリーをノーミスで滑ることができただけで、ぼくにとっては勝利です」
そう口にしたチャンだったが、やはり動揺している様子が見てとれた。
過去3年連続で世界王者だった自分がベストな演技をしたのに、転倒のあった選手に勝つことができなかったという事実が、ショックでないわけはない。自分の中で、懸命にその衝撃を和らげ落ち着こうとしているように感じられた。
ソチ五輪で最有力金メダリスト候補とされていたチャンだが、ここに来ていきなりカウンターパンチをくらった気持ちになったに違いない。
「フリーの演技には満足している。自分にとっての勝利でした」と、何度も繰り返した。