セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER
アジアの大富豪がインテル新会長に。
名門の人心を掴んだ笑顔と“中庸”。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byAFLO
posted2013/12/04 10:30
インテル前会長のマッシモ・モラッティと新会長就任会見を行なったエリック・トヒル(左)。
メディア対応、会合、根回し。新会長の仕事は多い。
イタリアでは、外国人オーナーがまだ珍しい。トヒルの買収が決まった当初は、東アジアの富豪も腫れ物に触るような扱いを受け、「サングラスをかければ“江南スタイル”の韓国人歌手そっくり」と揶揄されたこともあった。
新会長はメディア王らしく、チャンネルを問わずTVに連日出演し、新聞インタビューに応え、名門再建のメッセージを連日発信した。
トヒルは多忙の身ながら、会長就任直後からクラブ組織の見直しと練習場視察を精力的に努めている。もちろん、マッツァーリ監督とも会食を重ね、チームの現状把握も欠かさない。
リーグ機構のオーナー会合で、曲者ばかりの同業者にも顔を売り、新参者としての義理も果たしている。
さらに、将来の自前スタジアム建設を見越して、すでにミラノの周辺自治体へ根回しまで始めた。
ベルルスコーニとは対照的な、柔らかな人当たり。
当然トヒルのお膝元ジャカルタでも、インテル人気が高騰しつつある。
2億5000万人の人口を誇るインドネシアは、欧州各国リーグにとっても、まだまだ開拓の余地を残す巨大市場だ。現在、現地の放映権料額でプレミアリーグ(※年間3000万ユーロ)に大きく水を空けられているセリエA(同150万ユーロ)だが、トヒルのインテル買収でセリエAへの関心が一気に加熱すると、イタリアリーグ機構は早くも算盤を弾いている。
米国仕込みのスピード感あふれる行動力によって、トヒルは矢継ぎ早に物事を進めていく。しかし、人懐こい笑みと中庸の精神をもって、必ず当事者との話し合いをワンクッション入れる。決して独断はしない。同様にメディア王であるミランのオーナー、シルビオ・ベルルスコーニとは好対照なのだ。
初めは怪訝な表情を浮かべていた保守的なサポーターたちも、新会長の熱意を徐々に受け止めるようになった。大型補強への夢も膨らむ。