セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER
アジアの大富豪がインテル新会長に。
名門の人心を掴んだ笑顔と“中庸”。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byAFLO
posted2013/12/04 10:30
インテル前会長のマッシモ・モラッティと新会長就任会見を行なったエリック・トヒル(左)。
現場を一任されたマッツァーリも、やる気に。
「メッシを獲得してくれるよう説得するよ!」
大のインテリスタとして知られる二輪MotoGP元王者バレンティーノ・ロッシは、トヒルが自身のファンだと知ると興奮気味に補強の夢を語った。
ミリートとイカルディのFW陣は故障がちで、好調パラシオのバックアッパー補強は急務だ。1月の冬季市場のターゲットはセンターフォワードとされ、ボスニア代表FWジェコ(マンチェスター・C)か、イタリア代表FWオズバルド(サウサンプトン)の名が候補に挙がっているが、トヒルは「今後、クラブの補強ターゲットになるのは若手選手。何事も監督と話し合ってから」と安易な補強に首を振る。
現場を一任された監督マッツァーリは、仕事ぶりを評価されたことを意気に感じたらしく、会長が掲げた壮大な目標にも臆することなく挑む構えだ。
「トヒル新会長は今季の3位以上、そして、2016年のCLファイナル進出を目標にしているという。その話に私も乗らせてもらいたい。ハードルを上げるのは望むところだ」
12節リボルノ戦で、半年ぶりに復帰した主将サネッティも「この年でインドネシア語を習得するのは難しいが、新会長の下でも自分の役割を全うしたい」と選手たちを代表して新体制を歓迎する意向を示している。
純然たるビジネスとして、そしてインテリスタとして。
1日のサンプドリア戦は、新会長のサンシーロ初観覧試合となった。新しいインテルの門出を祝うべく、トヒルの呼びかけに応じて、御大マッツォーラやベルゴミ、パリューカといったクラブ史を彩る栄光のOBたち50人余がサンシーロへ集まった。
終了間際の失点で1-1のドローに終わった初御前試合の後、新会長は「ドラマがあるからこそサッカー。チームは45分間ではなく、90分間戦わなくてはならない。インテルは、マンチェスター・Uやバイエルンのいるところまで再び這い上がらなければならない」と、今後へエールを送った。
トヒルは、インテル買収が純然たるビジネスの一環であることを認めている。しかし、彼にインテリスタとしての素顔があったからこそ、前会長モラッティは自らの息子同様に扱ってきたクラブの譲渡を決めたのだろう。
「ジャカルタでは、セリエAのナイトマッチ生中継が始まるのは午前2時45分なんだ。もちろん、うちの4人の子供たちは寝ている。その時間にベッドから起きだして、たった一人で試合を見るのは正直辛いもんだよ(苦笑)。だが、今やインテルは私の人生の一部になった。サンシーロには毎試合行けないけれど、TV観戦だけは欠かせない」
世界の十傑クラブ入りを目指すトヒルにとって、ミラノとジャカルタとを結んだスカイプでの会議が、これからの日課になる。嬉しくも悩ましい、“プレジデンテ(会長)”としての人生が始まったのだ。