オフサイド・トリップBACK NUMBER
日本サッカー界に新たな黒船到来か?
清水のゴトビ新監督が起こす革命。
text by
田邊雅之Masayuki Tanabe
photograph byGetty Images
posted2010/12/21 10:30
名門大学UCLAで電子工学を学んだゴトビ監督。卒業後は少年サッカーの指導から始まり、後にアヤックス、ロサンゼルス・ギャラクシー、大宮アルディージャ、水原三星などのチームでも強化に携わってきた
なぜゴトビ氏はかくも優れた対戦資料を作れるのか?
ゴトビ氏がかくも優れた資料を作ることができた理由は、大きく分けて三つある。
一つ目は言葉(ハングル)の壁だ。氏は次のように解説していた。
「戦術や対応策を言葉だけで理解させるのは難しい。ましてやヒディンクは韓国語が喋れないのでなおさらだった。でも、映像は視覚に訴え、明確なイメージを選手に与えることもできる」(NumberPLUS「ドイツW杯完全読本。」収録:「韓国スタッフが明かす名将ヒディンクの戦術」より)
二つ目は生い立ちだ。現在46歳のゴトビ氏は「イラン生まれのアメリカ人」と紹介されることが多いが、イラン革命の影響で10代の初めにアメリカへ移住した過去を持つ。つまりはアメリカのスポーツ界が輩出した人材である。
4大スポーツ(NFL、MLB、NBA、NHL)のドキュメンタリー番組やコーチングマニュアルを見ればわかるように、アメリカはデータを駆使した戦術分析や、選手へのプレゼンテーション技術にかけては世界の最先端を誇る。ゴトビ氏も、このようなアメリカ式のスポーツ科学の薫陶を受けてきた。
ゴトビ氏は単なる「アメリカ人のサッカー監督」ではない。
三つ目は根っからの「教え魔」としての性格だ。氏はなんと中学時代、自身がユースチームの選手だった頃から他の選手を指導していたという。現にUCLAでは、男子チームのメンバーとしてプレーする傍ら女子チームの監督を兼任したし、24歳の時には独自のアカデミーを設立して多くの選手育成にも携わり始めた。これ以降、韓国やイランに加えてアメリカ代表、クラブチームではLAギャラクシーやペルセポリス(イラン)などで、戦術分析スタッフや監督として腕を振るうことになったのは、当然の流れだったといえる。
たしかに巷には「アメリカ人のサッカー監督」と聞いて首を傾げた人もいるだろう。アメリカは「地球上で最後まで残った、サッカー不毛の大陸」という印象が強いからだ。
しかしアメリカのサッカーは、そう捨てたものではない。たとえばW杯における実績。
第1回大会のベスト4進出はさておき、アメリカ代表は1990年のイタリア大会以降だけをみても日本代表よりもいい成績を収めてきた。
このアメリカ人監督が新たなサッカーの流れを作るかも!
いわゆる欧州組の数でも、アメリカは日本をはるかに凌駕している。韓国代表同様に、星条旗を背負ったチームが日本代表の好敵手となってきたことは多くの人が指摘してきたとおりだ。「サッカー不毛の大陸」というステレオタイプにばかり捕われていると、大事なところを見落としてしまうことになる。
ゴトビ氏の監督就任に期待が高まる根拠はいくつかある。
まずは日本サッカーの活性化だ。Jリーグのクラブ、日本代表チームを問わずアメリカ人監督を招聘するのは初となる(日刊スポーツ紙の記事によれば、国籍別ではブラジル人監督が38人、オランダ人10人、ドイツ人7人、スペイン、フランス、アルゼンチン4人、そしてイタリア人1人)。「初のイタリア人監督」ザッケローニが、カルチョの緻密さとヨーロッパで培った「常識」によって日本代表を活性化したように、Jリーグに異花受粉するアメリカの「種」は、新しいサッカーの流れを生み出すはずだ。