オフサイド・トリップBACK NUMBER
ヴァンフォーレ甲府はなぜ蘇ったのか。
城福が3バックに込めた「知」と「熱」。
text by
田邊雅之Masayuki Tanabe
photograph byAFLO
posted2013/10/19 08:02
「我々は絶対J1に残るべきチームであり15位で終わるべきチームではないと常にそういう心構えを持っている」と語る城福。専用練習場とクラブハウスも完成し、J1定着への道を確実にしつつある。
守備的な印象を与えない5バック。
そして様々な特徴にも増して特筆されるべきは、城福の3バックが守備的な印象を与えない点だろう。
GKやディフェンダー、ボランチから出されたボールは深く引いたウイングバックに渡り、次にはシャドーストライカーなどと絡みながら前に運ばれていく。守備時の5バックから、攻撃時の3バックに移行していくプロセスは非常に滑らかだ。
現に甲府は5バックをベースにしていても、ロングボール一発でカウンターを狙うような展開は少ない。城福の台詞を借りれば、それは「つなぐ意識の高さ」とも表現できる。
「最終ラインから繋ぐのと、カウンターを両立させるトレーニングは引き続きやりたい」(8月10日、新潟戦)
そして実際の試合内容も、守備的な印象を与えない上で貢献している。成績が急に好転したのは指摘した通り。引き分けた浦和戦では、シュート数でも相手を上回っているのだ。
城福の「意思」が報われるとき。
しかし、だからといって「城福の3バックは攻撃的なシステムだ」などと主張するのは適切ではない。安易な括り方は、城福が払ってきた努力と献身に対して失礼にさえ当たるだろう。
これまでの城福は「負けないサッカー」ではなく、「勝つサッカー」を愛してきた。FC東京の監督時代、パスサッカーとポゼッションを基盤に、積極的にゴールを狙っていくスタイルを追求し続けたのは今も鮮やかに記憶に残っている。
だが、今の城福が置かれた状況はこれまでとはまったく異なる。予算も少なければ、選手の顔ぶれも違う。ましてや甲府は泥沼の連敗街道を歩んでいた。チームを蘇生させたシステム変更に関しても、手持ちの駒を使いこなしながら最も効果的に戦える方法を必死に考え抜いた結果、たまたま3バックにたどり着いたというのが真相に近いはずだ。
不安と焦燥感に駆られる中、充血した目で選手リストやデータを凝視し、徹夜で机に向かい続けた城福の姿が目に浮かぶ。
J1残留。
それこそが、3バックに込められた城福の強烈な「意思」なのである。
残り6節。Jリーグの熾烈なサバイバル競争は続く。
城福が注いだ「知」と「熱」は結実し、チームは見事にJ1残留を果たすのか。そして3バックはどう進化していくのか。甲府の動向に注目していきたい。