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新入幕勝ち越しの遠藤は「太い」!
ふてぶてしさと、愛される理由。
text by
阿部珠樹Tamaki Abe
photograph byJIJI
posted2013/10/01 10:30
遠藤は12日目の徳勝龍戦で痛めた左足首を13日目の小結・栃煌山戦で悪化させ14日目から休場した。4場所目での最速三賞受賞はならず。
遠藤の人気は、出世や総髪だけではない。
立ち上がるとうまく体を入れ替えられ、頭を抑えられて土俵際に追い詰められたがよく粘った。軍配は相手にあがったが、物言いがつき、長い協議の末に取り直しになった。
取り直しになったあとの相撲は、もう同じ手は食わないという感じで、すばやく相手を追い詰め、文句なしでものにした。
物言いがついたことの不安、いったん負けをいいわたされながら取り直しになったうれしさといった感情の動く要素がありながら、それを表には出さず、淡々と勝ちきった。取組みが終わったあと、「太い」印象は一層強まった。力士の将来など占う眼力はないし、ケガなど不測の事態もあるのでなんともいえないが、1年以内には大関をねらう地位まであがってくるのではないか。
「太い」という印象は自分だけの特殊なものではないだろう。そうした印象はどこかに反発を生むものだ。ふてぶてしさが愛されるようになるには時間がかかる。それなのに、遠藤はなかなかの人気だ。土俵にあがるときの歓声は大関をしのぐほどだし、取り直しになったときの盛り上がりはなかなかだった。
古典的なイケメンで、コメントもそこそこ面白いとはいっても、それだけで「太さ」の憎々しさを和らげることはできないだろう。遠藤がなかなかの人気を集めるのは出世の速さや総髪といった要素だけではない。
ふてぶてしさを中和する、ひと回り小さな体。
ひとつには体が小さいことも関係していないか。遠藤の体重は143kg。160kg台が平均の幕内力士のなかで、小兵とはいえないが微妙に小さい。柔道の1階級下という感じだ。そのわずかだが小さな感じが、落ち着いたふてぶてしさを中和し、懸命さを際立たせる。相手はだいたい自分よりひと回り大きいので、「あの相手によくやっているじゃないか」となる。
対照的なのが大関の稀勢の里だ。大事な一番に弱く、横綱候補なのに期待を裏切りつづけるといわれる大関だが、もし、彼が遠藤と同じぐらいの体格なら、いつも健闘する名大関といわれただろう。188cm177kgという両横綱をはるかにしのぐ堂々たる体躯を持ちながら、肝心なところで負ける。その惜しい感じが稀勢の里を見るときのもどかしさにつながっている。
遠藤にはもうひと回り大きくなれという親方もいるようだが、しばらくは現状のままがよいのではないか。動きも軽快だし、なにより太い感じがうまく隠れて、人気もさらに出るはずだ。