野球クロスロードBACK NUMBER
「優勝チームに名捕手あり!」
オフの選手移籍の要はやっぱり捕手。
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byToshiya Kondo/Hideki Sugiyama
posted2010/12/03 10:30
野村克也氏が現在の球界でお気に入りのキャッチャーとして名前を挙げていた細川(左)。楽天・野村監督時代に野村克則とレギュラー争いをして最終的に正捕手を勝ち取った藤井(右)
ソフトバンクが西武の細川を獲得した理由とは?
これで分かるように、捕手の場合、明確な起用プランがなければ補強しても意味がない。
そういった意味では、ソフトバンクが西武の細川亨を獲得したのは頷ける。
今年は、前年にチームトップの26本塁打を記録し正捕手となった田上秀則が、二軍落ちするなど絶不調。山崎勝己もリード面では貢献したが、打撃では打率2割1分と精彩を欠いた。
城島健司がチームを離れてから自前の捕手がなかなか育っていない。そのため、西武の正捕手として日本一を2度経験している細川は、ソフトバンクにとって垂涎の選手であったことは言うまでもない。
細川の捕手としての能力を高く評価する野村克也は、捕手の重要性についてこう簡潔に述べてくれたことがある。
「優勝争いするようなチームには必ずと言っていいほど優秀なキャッチャーがいる。『優勝チームに名捕手あり!』ですよ」
この言葉をソフトバンクに当てはめてみれば、'03年以降日本一から遠ざかっているだけに、チームとしてもウィークポイントはしっかりと認識していたことになる。
阪神入りした藤井には「競争」よりも「役割」が重要。
ソフトバンクとは異なる事情で捕手を獲得したのが阪神だった。
左ひざの手術に踏み切ったため来季開幕戦まで間に合わないとされる正捕手の城島の代役として、楽天からFA宣言した藤井彰人に白羽の矢を立てたのだ。
藤井本人は、入団会見で「城島の代わりとか言われているけど、自分の力で競い合って頑張りたい」と正捕手取りに意欲を見せた。
ただ、果たして本当に競争という舞台は用意されるのか?
城島は今シーズン、全試合スタメン出場し打率も3割をマークした選手だ。ひざが回復すれば即スタメンは必至。そのため、打撃が課題とされる藤井を、同じ土俵で勝負させるのはいささか酷な話ではある。
ならば、「競争」させるのではなく「役割」を与えたほうがチームにとってプラスになるのではないか。
阪神といえば、'02年オフにも似たような補強を行ったことがある。当時、不動のレギュラーである矢野輝弘がいながら、日本ハムから野口寿浩を獲得。同時期に金本知憲や伊良部秀輝といった大物選手を呼びよせながら、監督の星野はきっぱりとこう言ってのけた。
「この補強で一番の収穫は野口や」
野口にそのことについて尋ねたことがあったが、彼自身、「二番手という意識は全くなかった」という。それは、監督から求められているものが分かっていたからだ。