オリンピックへの道BACK NUMBER
東京五輪を引き寄せた1つの数字。
五輪での薬物違反者「0」の意味。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byGetty Images
posted2013/09/09 11:45
見事なプレゼンテーションを披露し、日本開催を引き寄せた太田雄貴と滝川クリステル。あとは世界への宣言を実現し、期待に応えるだけだ。
東京だった。
9月7日、アルゼンチンの首都ブエノスアイレスで開かれた国際オリンピック委員会(IOC)総会で、2020年の夏季オリンピック・パラリンピック開催地は東京に決定した。
1度目の投票で東京は42票を獲得して1位通過する。ともに26票で同数となったマドリード(スペイン)との再投票で残ったイスタンブール(トルコ)と競うことになった決選投票では60票を集め、36票のイスタンブールに大差をつけ、56年ぶり2度目のオリンピック開催を決めた。
総会前の予想では、接戦が伝えられていた。
この1年の経過を見ても、当初はイスタンブールが強いと見られ、イスタンブールが勢いを失うと、運営や財政面などで信頼を得ていた東京が優位にあると考えられた。7月になると、IOC委員3人を擁するマドリードが巻き返し、東京を上回るのでは、と見る向きもあった。
報道でも数多く伝えられたように、マドリードはスペインの経済状態が、イスタンブールは5月末の反政府デモへの対処や隣国シリアの情勢が、東京は福島第一原発の汚染水漏れが、3都市それぞれにマイナス材料を抱えて迎えた総会であった。
その中で、東京が選ばれた理由はどこにあったか。
日本が誇る精神のひとつが「反ドーピング」。
2024年の開催地をめぐる思惑、2014年冬季のソチ、2016年夏季のリオデジャネイロ五輪の準備状況への懸念、次期IOC会長選をにらんでのやりとり、さまざまな要素が少しずつ影響を及ぼしたのは間違いないだろう。マドリードの場合、スペイン紙が直前に、マドリードに投票するIOC委員を顔写真つきのリストで掲載した記事も痛手になったはずだ。過去の傾向からして、IOCは「リーク」を嫌うし、載せられた委員の中に反発があったのは想像に難くない。それらの詳細な分析は、多数出てくると思う。
その上で、東京が選ばれた理由、東京がもっとも評価された理由のひとつに「日本のスポーツの力」があった。
反ドーピングである。
記者会見では、フェンシングの太田雄貴が、「日本の選手からオリンピックで薬物使用の陽性反応が出たことは一度もありません」、競泳五輪金メダリストの鈴木大地氏は「不正をしてまで強くなりたいとは思わないという倫理観が日本人の特性」と反ドーピングの実績と姿勢をアピールした。実際、過去の選手への取材を踏まえて考えれば、日本の選手のドーピングへの嫌悪感は強い。