オリンピックへの道BACK NUMBER
「対応力」で金を獲得した高藤直寿。
世界柔道で見えた男子復活の兆し。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byKyodo News
posted2013/09/09 10:31
決勝でモンゴルのアマルトゥブシン・ダシダワーに優勢勝ちし、初優勝を決めた高藤直寿。
男子全体でも、ロンドンから大きな進歩が。
ルールが発表になった昨年12月には、日本代表の井上康生監督も指摘していた。
「高藤は、モデルチェンジをする必要があるでしょう」
周囲のそうした見方の中で、しかし、高藤は大会ごとに下半身を取らない肩車など、技のバリエーションを増やしていった。
培ってきた技を捨てて、使える技を身につけるのは、たやすいことではない。だからこそ世界選手権での金メダルの価値は大きいし、すぐさま適応できたところに高藤の能力の高さ、努力、将来性が感じられる。
「満足しないで、上を向いていきます」
高藤はそうコメントしているが、リオデジャネイロ五輪へ向けて、楽しみな存在となった。
高藤をはじめ、男子全体をあらためて見れば、重量級こそメダルに届かなかったものの、金メダルのなかったロンドン五輪から金メダル3つと、一定の成果のあった大会となった。要因のひとつには、指導体制が変わったことがあげられるのではないか。
井上監督が就任する際、期待されたのは、前体制で課題となった選手とのコミュニケーションの改善、イギリス留学などで学んだ指導力にあった。根性主義の猛練習とも取れたこれまでの体制に対し、選手の判断に委ねる部分も大きくなったと聞く。「やらせる」のではなく、「こう自分は考えたからやる」、言ってみれば選手の責任感を高めたのである。それがモチベーションにもつながっている。
充実の男子、苦悩の女子、今後は?
一方の女子も新体制となって臨んだが、大会前から危惧はあった。この数年、第一線で牽引してきた48kg級の福見友子、52kg級の中村美里と西田優香、57kg級の松本薫、63kg級の上野順恵、78kg超級の杉本美香が、引退や休養などの理由で、不在の大会だったからだ。その穴を埋められるのか、新しい選手の台頭はあるのかが焦点だったが、やはり容易ではないことを見せ付けられた。
特に48kg級の浅見は優勝の期待がかかる存在だったが、決勝で敗れた。調子が悪かったようには思えない。むしろ、優勝したモンゴルのムンフバットをほめるべきだし、ムンフバットにかぎらず、多くの階級で見られた海外勢の関節技や寝技への意識の高まりと技術の向上に対し、日本が立ち遅れた象徴であったかもしれない。
帰国した井上監督は、大会を振り返って、こう語っている。
「大きな収穫と課題もありました。次につなげていきたいと思っています」
女子の南條充寿監督は対照的だ。
「今後を考えさせられる結果となりました」
男女それぞれの現在の立ち位置が浮かび上がった。ここから、今大会と同じくリオデジャネイロで開催される、3年後の五輪へのスタートが切られる。