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「対応力」で金を獲得した高藤直寿。
世界柔道で見えた男子復活の兆し。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byKyodo News
posted2013/09/09 10:31
決勝でモンゴルのアマルトゥブシン・ダシダワーに優勢勝ちし、初優勝を決めた高藤直寿。
9月1日、リオデジャネイロで行なわれていた柔道の世界選手権が終わった。
全日本柔道連盟をめぐる不祥事やその対応のずさんさで大きくイメージが損なわれる中、名誉回復の意味合いもあった大会である。
男子は初日の60kg級で高藤直寿が優勝したのを皮切りに、66kg級海老沼匡、73kg級大野将平と3つの金メダルを獲得し、66kg級では福岡政章も銅メダル。最終日の団体戦でも銅メダルで大会を終えた。
一方の女子は、48kg級の浅見八瑠奈が銀メダル、52kg級の橋本優貴と78kg超級の田知本愛が銅メダル。団体戦で金メダルを獲得したものの、個人戦では22年ぶりに金メダルなしに終わった。
男女全体の評価は後述するが、この中で強い印象を与えたのは高藤だった。
現在、東海大学2年生。世界選手権の60kg級制覇は1997年の野村忠宏以来であり、20歳2カ月での優勝は日本男子で史上3番目の若さだった。
高藤は、昨年5月のモスクワ、11月の東京と、グランドスラムで2度優勝。今年に入ってからも2月のグランドスラムパリ、5月のワールドマスターズと主要国際大会で勝ち続け、そして世界選手権でも優勝を果たした。最も勢いのある若手である。
得意だった返し技がルール変更で禁止になり……。
何よりも、優勝の価値は、「対応力」をあらためて示したことにある。
実は柔道は、グランドスラムパリから世界選手権まで、試験的に新ルールを導入して行なわれている。期間中の大会での様子を見て、あらためて今後のルールが議論されるのだが、新ルールの中でも注目された一つが、
「立ち技の際、相手の帯から下をつかんで攻撃する、またはブロックするすべての行為は反則負けとする」
であった。
2010年にはタックルで相手を倒すなど直接、下半身を攻撃するのは反則となっていたが連続技や返し技では認められていた。今回の変更でそれらもまた反則とされたのだ。
そして日本代表クラスで、新ルールの影響を強く受けるのは高藤だと言われていた。
高藤は相手の仕掛けに対する返しに長けていて、掬い投げなどを得意としていた。そうした技が使えなくなり、いきおい、試合運びも修正しなければならないと見られていたのだ。