野ボール横丁BACK NUMBER
夏連覇の名将に似た匂いを持つ31歳。
延岡・重本監督の“入り込む”資質。
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byHideki Sugiyama
posted2013/08/24 08:01
決勝を終え、晴れ晴れとした表情で甲子園を去る延岡学園・重本監督。まだ31歳、また甲子園でド派手なガッツポーズを見せてほしい。
重本は取材でも滅多に選手を誉めない。
試合中、選手を叱責しているように映るときも、重本は怒っているわけではなかった。ただ単に試合に入り込んでいるだけなのだ。
決勝戦でも象徴的なシーンがあった。試合前、アルプススタンドにあいさつをし、ベンチに戻ってくるときのことだ。自然発生的にかけっこのようなムードになった。そのとき、誰よりも楽しそうにその雰囲気に乗っかり全力疾走していたのが重本だった。
そして、試合後。同じようにアルプススタンドにあいさつをして戻ってくるとき、メガネを外し、誰よりも涙をぬぐっていたのも重本だった。
重本は自分で「僕、口が悪いんで」と話すように露悪的な面があった。取材でも滅多なことでは選手を誉めない。
「あいつは、あまりにもいい加減過ぎる」
「あいつは、まったく信用のない男なので」
「あいつは、そんなレベルの選手じゃない」
高校生と同じ目線で、でも近づきすぎない。
3-4で前橋育英に敗れたあと、グラウンド取材の時間になっても重本はなかなか泣きやまなかった。ベンチ前の柵に腰を下ろし、嗚咽した。
「選手に申し訳ない。勝たせてやることができなかった……」
そんな重本の姿を見ながら、口が悪い理由がわかった。入り込み過ぎるのだろう。だから、あえて悪態をつきながら選手との距離感を保っていたのだ。
こういうコミュニケーションの取り方があるのだと思った。
上からでもなく、下からでもない。高校生と同じ目線を持ちながら、でも近づきすぎない。香田がまさにそうだった。
香田の天才性は、意識せずともそうした位置取りができたことだ。重本にも同じ匂いを感じる。重本は、まだ31歳だ。宮崎県勢初となる全国制覇に挑戦するチャンスは近いうちにまた訪れるのではないか。