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献身的なFW“ジュビロの前田遼一”は、
“日本の前田遼一”になれるのか?
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byTakuya Sugiyama
posted2010/11/17 10:30
昨シーズン、前田が獲得したJリーグ得点王は、日本人選手としては史上5人目であった。前田の前は7年前の高原直泰までさかのぼることになる
中山、高原の薫陶を受けた献身的なストライカー。
ストライカーはエゴイストでなければならない、との見方は今も昔も変わらない。
史上最高のストライカーとも称される西ドイツの“爆撃機”こと、ゲルト・ミュラーは「(ストライカーは)チャンスだと思えば、エゴイストに徹することだ」と語っている。
だが、前田のエゴイスト色は極めて弱い。
まずもってオレが、オレがという雰囲気を醸し出すことがない。チームのひとつの駒になって、味方に使われて、味方を使う。お互いの信頼関係がゴールに直結する――。彼はこのポリシーをチームで培ってきた。
前田は、ジュビロの先輩ストライカーに多大な影響を受けている。献身的なプレーを持ち味としながら日本人得点王となった中山雅史、高原直泰の姿を、前田は追ってきた。
ジュビロOBで磐田の黄金期を築いた一人である元日本代表の奥大介(現多摩大学目黒高校サッカー部監督)は前田に2人から受け継いだエッセンスを見る。
「ジュビロに入ったころの遼一は体の線が細かった。ゴンさんの影響を受けて体づくりに励み、フィジカルを強くしようと必死でやっていました。今の遼一の運動量とか、体の強さを見ていると、ゴンさんに似ています。それにドリブルや体の使い方、ポストプレーのうまさなどは高原に似ています。ジュビロという土壌が、遼一のストライカー像をつくっていったのだと思います」
抜群のスピードはなくとも、足元の高度なテクニックと「危険なエリア」に嗅覚で入っていけるセンスは、あのデニス・ベルカンプにも似ている。そして、高原もまた同じタイプだと言える。
代表での実績が不十分なのは周囲に合わせすぎるからだ。
しかし前田はジュビロで活躍しているとはいえ、中山、高原と違って日本代表では十分な結果を残せていない。A代表通算7試合に出場して2得点。ケガなどの不運はあったにせよ、岡田ジャパンでは定着さえできなかった。
代表においてもストライカーのエゴを消してチームプレーに専心していることに、その要因があるのではないだろうか。連係面で味方との呼吸が微妙に合っていないことが、前田個人の結果に表れている。
10月12日の韓国戦。ザッケローニから1トップに指名された前田は代表では久々に先発で起用された。相手の激しい寄せに屈することなく、しぶとくポストプレーをこなして味方の攻撃につなげたことは高く評価できる。ただ、いかなる事情があるにせよ、シュート数ゼロはいただけない。