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<長谷部、大久保、内田を抜擢した猛将> フェリックス・マガト 「私が日本人を好む理由」
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph byDaisuke Nakashima
posted2010/11/10 06:00
マガトが長谷部を評した言葉とは?
自らのサッカー理論と相性が良く、弱点を改善できるレシピもある。マガトは、自分が発掘した日本人を輝かせる“錬金術”を使いたくて仕方がないのかもしれない。
とはいえ、マガトが日本人を好むのには、もっと深い理由があるような気がする。
通訳として長谷部を6カ月、大久保を3カ月サポートした山守淳平(現在は香川真司の通訳を務めている)は、マガトが日本人への偏見を持っていないという印象を受けた。
「マガト監督の一番の特徴は、日本サッカーに対して『注目に値しない』という先入観を持ってなかったことだと思います。今ではもう当たり前かもしれませんが、当時はまだブンデスリーガに日本人選手が少なく、正当に評価するのは簡単ではなかったでしょう」
マガトはなぜ、フィルターを通さずに日本人を見られたのだろうか。
そのヒントは、最近のドイツ人の若者の傾向に隠されていた。
マガトは常々、こう嘆いている。
「最近のドイツの若手は聞く耳を持たず、問題を自分で解決できなくなってきている。ドイツ人の美徳が失われつつあるんだ」
それを今まさに持っているのが、日本人なのだ。マガトは長谷部について、こう評したことがある。
「ドイツ人が失いつつあるものを、チームにもたらしてくれる存在だ」
マガトが抱く古き良きドイツサッカーの理想像。
ドイツ代表としてW杯で2度準優勝したマガトには、古き良きドイツサッカーの理想像がある。
「かつてドイツサッカーが国際舞台で輝いたのは、規律と戦術が融合していたからだ。それが他の国との一番の違いだ。私はそれを再現しようとしている」
もしかしたらマガトは、日本人選手を見ると、ノスタルジックな気分になるのかもしれない。
代理人のトーマス・クロートには、こんな冗談を言ったことがあるという。
「私のチームに、日本人を11人連れてきてくれ」
もしブラジルで、そんなことを言ったら、失笑されるだろう。二流のブラックジョークとして。だが、今、ドイツでなら?
長谷部が2010年W杯直前に、日本代表のキャプテンに選ばれたとき、マガトは自分のことのように喜んだという。内田の入団会見では「マコトはドイツで急成長した。アツトも同じような道をたどってほしい」と期待を込めて語った。
鬼軍曹のスパルタと、日本人選手の汗が織り成すサクセスストーリーは、まだ序章にすぎない。