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降格の危機からスクデット獲りへ!
ラツィオを変えた老将レーヤの兵法。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byGetty Images
posted2010/11/12 10:30
セリエA最年長の65歳ながらも、ピッチ際では熱く檄を飛ばすレーヤ監督。どこまで首位を守れるか
毎週末、ラツィオの試合が終わるたびに聞かれる「残留まであと勝ち点○○……」とは、エドアルド・レーヤ監督の口癖だ。
しかし、その言葉を額面どおりに受け取る人間はもはや少数だろう。
シーズンの4分の1を消化した時点でセリエAをリードしているのは、5連覇王者インテルでも豪華FW陣を擁するミランでもない。かつてクラブ経営が破綻寸前に陥り、昨季は最終盤まで残留争いに苦しんだラツィオが、堂々と首位争いを繰り広げているのだ。
10節終了時点での勝ち点22は、過去2度のスクデット獲得シーズンを上回るクラブ史上最高のペース。“忘れられた名門”ラツィオを再生させたのは、65歳を迎えたセリエA最年長監督レーヤである。
監督稼業31年の間に率いたチームの数は、プロアマ合わせて21。ビッグクラブとは縁薄く、酸いも甘いも噛み分けながら、地方チームや辺境を渡り歩く時期が長く続いた。昨季もシーズン残り3カ月での救援登板だった。バラバラだったロッカールームの空気を引き締め、モチベーターとしての本領を発揮。すんでのところでチームを降格から救った。
柔軟な戦術と老練な人心掌握術で弱小チームを引き上げる。
柔軟な面もある。今季の開幕サンプドリア戦に「3-5-2」で臨み0-2で敗れると、あっさりとこれを捨て、堅守の4バックへスイッチ。今季サンパウロから獲得したMFエルナネスを不動のトップ下に据え、まずはボール支配をプレーの念頭に置いた。
「プロフェータ(=預言者)」の異名を持つエルナネスは指揮官の期待に応え、両方の利き足から決定的なアシストを次々に量産。ブラジル人の“預言者”に導かれたチームは着々と勝ちを重ね、6節ブレシア戦以降、単独首位の座に立った。
しかしレーヤが再三強調していることだが、エルナネスを除けば、実はチームの根幹を成すメンバーは、GKムスレラやMFマウリをはじめ昨季とほぼ同じ。老将レーヤが持つ最大の武器とは、その豊富な選手運用経験だ。
チームのモチベーションと一体感を高めることで好成績に結びつける手法は、'06年に3部からセリエB、翌年にはセリエAへと、2年連続昇格を果たしたナポリ時代と重なる。
ラツィオの監督として先輩にあたるディノ・ゾフが「レーヤの選手掌握術は、モウリーニョのそれと似通っている」と称賛すれば、40年来の親友ファビオ・カペッロ(イングランド代表監督)も「エディは探究心と熱意の男。CL出場圏は確実にいける」と太鼓判を押す。