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<長谷部、大久保、内田を抜擢した猛将> フェリックス・マガト 「私が日本人を好む理由」
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph byDaisuke Nakashima
posted2010/11/10 06:00
統率された組織を作るには、日本人の「3要素」が不可欠。
マガトは鬼軍曹のイメージが強いが、実は戦術のディテールにこだわる理論家だ。口癖は「サッカーはチェスだ」。4-3-1-2を理想のシステムとし、ピッチの11人に明確な役割を与える。たとえば、ヴォルフスブルク時代、右MFの長谷部には「守備のときに中央に絞りすぎず、相手のサイドアタックを潰せ」という指示が与えられていた。
攻撃ではロングボールを多用してガンガン前に進み、ボールを奪われたら全員が自陣に戻る。DFラインの上げ下げが激しく、誰一人としてサボることは許されない。
蜂のように相手を取り囲み、号令ひとつで一気に敵陣に襲い掛かる。そういう統率された組織を作るうえで、日本人の「3要素」は欠かせないのだ。
マガトは言う。
「私が要求する戦術と、日本人選手のメンタリティは非常に相性がいい。日本人選手はとても勤勉で、こちらがブレーキをかけなきゃいけないくらいだからね。アツトはチームが与えた休暇を早く切り上げて、ドイツにやって来た。こういう選手がチームにいるのは、本当に嬉しいことだ」
大久保のアウトサイドパスを叱責した理由。
もちろんすべての面を、手放しで肯定しているわけではない。マガトは日本人選手が派手なプレーを好む傾向があると感じており、それを修正させようとしている。
ヴォルフスブルク時代、大久保が左足のアウトサイドを使ってパスを出したとき、マガトは声を張り上げた。
「なぜ、左足のインサイドできちんと蹴らないんだ。サッカーはサーカスではない。不正確なプレーはするな!」
オーバーヘッド、ヒールパス、アウトサイドのパス。こういう一か八かのプレーをする前に、もっと確実な選択肢がなかったかを考えろということだ。マガトからすれば、自分の美技をひけらかすだけの、自己満足に見えてしまう。
その一方で、一般的に日本人の弱点と言われるフィジカルを、マガトはまったく問題視していない。内田の線の細さも、必ず改善できると確信している。
「確かにアツトの体にはまだ強さがない。だが、きちんと筋力トレーニングを継続すれば、必ず守備力はアップする。そのための個人メニューも与えた。また、私はJリーグを評価しており、そこで100試合以上出場したという実績を信頼している。彼にはクオリティーの高い攻撃力があり、我慢して練習に取り組めば、必ず私たちの4バックを進化させてくれるはずだ」