MLB東奔西走BACK NUMBER
3年目にして到達した“安定”の域。
それでも黒田博樹はメジャーを去る?
text by
菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi
photograph byAP/AFLO
posted2010/10/04 10:30
黒田の奮闘はあったものの、資金難から適切な補強が行えず、プレーオフ進出を逃した。ヤンキースで一時代を築いたジョー・トーリ監督も退任
ドジャースの黒田博樹投手が、今シーズンの投球を終えた。彼がずっと目標にしてきた200投球回まであと3回2/3に迫り、トーリ監督の計らいで公式最終戦に登板することもできたが、自らの意志で登板を取り止めた。
「プレーオフ争いとかがあれば自分の気持ちというか、モチベーションも違うと思いますけど。プレーオフ進出がなくなってからは投げていても自分の中でモチベーションをあげるのがすごく大変だった。元々は28日のピッチングが最後と決まっていたので、自分の中ではそこまでというのがあった」
個人記録ももちろん大事だが、ずっと黒田のモチベーションを支えてきたのはチームの勝利、そしてプレーオフ進出だった。
だからこそ、個人記録のためだけにマウンドに上がる気力はなくなっていたのだろう。先発投手のシーズン200投球回というのは、打者でいうところのシーズン200安打に近い記録といっていいだろう。
だが今シーズン全般を振り返ってみれば、黒田は記録達成にこだわる必要がないくらいの達成感を味わっているはずだ。
「それ(200投球回)以上に自分の中で納得する投球がたくさんできた。監督も数字以上に頑張ってくれたと言ってくれた。それだけで僕は満足かな」
メジャー3年目にして数字に表れたエース級の安定感。
今シーズンの黒田を表現するならば、“安定”の一言に尽きる。11勝13敗、防御率3.39という成績だけみれば、疑問を抱く方も少なくないだろう。だが本人の言葉にもあるように、投球内容はメジャー3年間で最高のものだった。
登板試合数はメジャー1年目の2008年と同じ31試合だが、投球回数をみると2008年が183.1回に対し今年は196回3分の1。さらに三振数も116から159と急増している。一方失点数は投球回が増えている分だけ85から87と微増しているのだが、自責点になると逆に76から74に微減しているのだ。これらのデータから勝敗だけでは見えてこない黒田の投球の内実を感じ取ってもらえるだろうか。
特に今シーズン後半戦にみせた投球は、まさにメジャーでもエース級の安定感だった。
14試合に先発し防御率は2.87。8月2日のパドレス戦での4回降板以外は、すべて6回以上を投げ、先発投手としての役割を全うしている。プレーオフ争いを続けた大事な時期に、クレイトン・カーショーとともに左右の大黒柱であり続けた(そのカーショーにしても防御率2.91ながら、13勝10敗と勝利数が伸びていないのだから、ドジャースがプレーオフ争いから早々に後退したのも頷けるだろう)。7月などはなかなか勝てない状況が続き、「今思えばあの時期が一番しんどかったし、苦しかった」と振り返ってもいる。