ボールピープルBACK NUMBER
貪欲なブラジルが静かに優勝。
お土産はダビド・ルイスの肘打ち。
text by
近藤篤Atsushi Kondo
photograph byAtsushi Kondo
posted2013/07/03 13:50
コパカバーナにいた“ボールピープル”のひとり。カナリアイエローがビーチに映える。
コンフェデはコンフェデ。ワールドカップとは違う。
試合後のセレモニーが終わり、スタジアム前からメディアバスに乗ったのは午後10時半、コパカバーナには11時過ぎに着いた。
市内は大騒ぎになっていると思っていたが、深夜営業のカフェやレストランでは、カナリア色のレプリカに身を包んだ人たちが、テレビで流れるブラジルの得点シーンを眺めながら、静かに食事をしたり、ビールを飲んだりしているだけだった。夜のコパカバーナに、Brasil! の叫び声が響くこともなければ、ネイマールやフレッジの名前が連呼されることもなかった。
やっぱりコンフェデはコンフェデ。ワールドカップではないことを、ブラジルの人もよくわかっている。僕もレストランに入り、彼らと同じようにテレビ画面を眺めながら、遅めの食事をとることにする。
世界王者スペインの顔に泥が塗られて……ただでは済むまい。
コンフェデ。長かったような、短かったような、そんな2週間だった。
3戦全敗という結果を残し、日本代表がブラジルを離れてからは、比較的時間がゆっくりと過ぎていったような気がする。
2週間で撮ったゲームは5試合。日本に戻るにはちょうどいい腹具合だ。メインディッシュは予想外の展開となったが、ブラジルが勝ってよかったと思う。依然としてこのセレソンがそんなに強いとは思えないが、決勝で見せた彼らの勝利にかける気迫は、本当に凄まじかった。サッカーというスポーツにおいては、流れを掴むことがどのくらい重要なのか、それを改めて知らされたゲームでもあった。
そしてなによりも、絶対王者スペインの顔に泥が塗られた。
次の彼らは完璧な用意をして、必ずその泥を拭いに戻ってくるだろう。
W杯で再びこの両国が相見えるところを想像しつつ――僕は、左の頬骨を指でそっとなぞる。
マラカナンでの試合終了後、観衆に手を振って走る大喜びのダビド・ルイスを追いかけながら写真を撮っていたら、思い切り振り下げた彼の右肘ががつんと当たった。彼の方が先に驚き、大丈夫? と僕の肩に大きな右手を置いてきた。
ダビド・ルイスのファンなら失神ものの肘打ちだ。頬を触ると少し血が出ていた。
最後の最後でダビド・ルイスの肘打ち。
この傷は2013年コンフェデのお土産として、ありがたく頂戴しておくことにする。
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