ボールピープルBACK NUMBER
貪欲なブラジルが静かに優勝。
お土産はダビド・ルイスの肘打ち。
text by
近藤篤Atsushi Kondo
photograph byAtsushi Kondo
posted2013/07/03 13:50
コパカバーナにいた“ボールピープル”のひとり。カナリアイエローがビーチに映える。
スペインのサッカーを潰しにかかったセレソンたち。
「自分たちのサッカーをやらせてもらえるから」
数日前、飛行機の隣席のブラジル人はそう口にしたが、この日のブラジルはウルグアイが自分たちにやったことを、スペインに対して仕掛けていった。
自分たちのサッカーをするよりも、まず相手のサッカーを潰す――。
前半開始から、ブラジルのフィールド選手10人はものすごいタックルとものすごいチェイスとものすごいチャージをスペインにかけ続けた。特にイニエスタとシャビへのプレッシャーは苛烈を極めていた。もしこれが第三国での試合なら、ブラジルの選手は試合開始後数分でイエローカードを出されていたかもしれない。しかしながら、ここはマラカナンだ。ブラジルは王国のプライドをかなぐり捨て、ただひたすら勝利をどん欲に追い求める群れになっていた。
ブラジルの激烈な試合への入り方が、はたしてスペイン代表を慌てさせたのかどうか、選手に直接聞いたわけではないので本当のところはわからない。調子がいいときの彼らであれば、そのブラジルの猛チャージさえ機械のようなパス回しでいなすことができたのかもしれない。
でも、ピッチサイドで見ている限り、スペインはすくなくとも前半20分ぐらいまで、ブラジルの激しいゲームの入りにやや面食らっていたように感じた。
スペインは、フォルタレーザという赤道にほど近い街で120分間戦い、そのあと中2日で決勝を迎えている。身体がゲームのリズムを掴む前に、ブラジルに完全にイニシアチブをとられた形だった。
ゲームの行方を大きく左右した、ダビド・ルイスのプレー。
前半20分を過ぎると、試合のリズムはすこし安定する。
先制した後もブラジルはプレッシングを緩めなかったが、スペインも落ち着きを取り戻し、自分たちのサッカーを構築し始める。しかし、中盤での素早いパス回しではリズムを取り戻したものの、バイタルエリアがなかなか攻略できない。一方のブラジルは自陣ペナルティエリア内で相手のボールを奪うと、そこから中盤を省略して一気に前線へとカウンターを仕掛ける。
ゲームの行方の3分の1ほどを決めたのは、前半41分のダビド・ルイスのプレーだろうか。
マタのパスを受けてペドロがフリーで打ったシュートを、ダビド・ルイスはゴールライン上、捨て身のスライディングで阻んだ。その3分後、ブラジルはエースのネイマールがカウンターから豪快なシュートを決め2-0とする。
2-0というスコアはサッカーでは一番危険なスコアだと言われる。しかしこの日のブラジルは違った。
後半2分、フッキが前線でためて出したパスをネイマールがスルーし、後ろから走り込んで来たフレッジが見事なインサイドキックで3点目を決める。ゲームの流れが決まった2つ目の“3分の1”はここだった。
日本戦同様、ブラジルは後半開始早々から、「さぁこれから!」という相手のやる気をさらに上回る気迫でピッチに入り、欲しかったもう1点をもぎ取った。これほどゲームプランが上手く運ぶことも珍しいだろうが、この日のマラカナンではボールの弾み方すらもブラジルの勝利を後押ししているようだった。
そして……ゲームの流れを決めた最後の“3分の1”は、そのブラジルの3点目が決まった7分後、ヘスス・ナバスが得たPKをセルヒオ・ラモスが外したことだ。
スペイン代表の身体と心の電池はここで完全に切れ、後半23分にはドリブルで持ち込んで来たネイマールの足をピケが不用意に引っ掛け、一発退場。
シャッキーラ! シャッキーラ! スタンドからの大合唱の中、ピケはピッチを歩き去る。
ゲームは終った。
僕も一緒に小さな声で、シャッキーラ、シャッキーラ、と合唱に加わる。
“ラテンポップのディーバ”と呼ばれる恋人の名前をコールされながら退場するなんて、ピケは幸せ者だ。
1人少なくなったあとでもボール支配率で上回り、攻め続けたスペインはさすがだったが、0-3のスコアをひっくり返すだけの余力はもう残っていなかった。一方のブラジルは大観衆のオーレのかけ声と共にボールを回そうとするのだが……彼らのパスは5回も続かず、スタンドから次第にオーレのかけ声が出なくなった(笑)。
やっぱりこのセレソンはあまり上手くはない。