ボールピープルBACK NUMBER
催涙スプレーと鈍かったセレソン――。
ブラジルに負けて「がっかり」の贅沢。
text by
近藤篤Atsushi Kondo
photograph byAtsushi Kondo
posted2013/06/18 17:20
デモ行進の先頭と機動隊。ピエロのメイクをした女性たちが、目の前でシャボン玉を吹く……。
スタジアムのすぐ外で……デモ行進と催涙ガス。
そんな美しい祝祭ムードの朝の光の中、11時前に街の東側から行進してきた1000人ほどのデモ隊が、スタジアムの入り口の一つまで押し寄せ、機動隊とのにらみ合いを始める。
“サッカーに使う金があったら、教育に回せ!”
“サッカーは空腹の解決にはならない!”
ここ10年でかなり豊かになったとはいえ、まだまだこの国の富裕層と貧困層の差は大きい。彼らの主張していることは文句なしに正しい。
ひとりの若者が執拗に目の前の機動隊員を挑発し、その様子を見かねた隣の隊員が若者の顔に向かって催涙スプレーを吹きかけた。若者は地面で悶絶する。
催涙スプレーの飛沫が僕の左目にも飛び込んできて、5分ほど涙が止まらなくなった。
僕はデモの撮影をしにブラジリアに来たわけではないので、これを潮時としてスタジアムの中へと足を運ぶことにした。
午後2時半、ナショナルスタジアムのピッチ上では華やかなオープニングセレモニーがスタートし、そして午後4時、ブラジル対日本戦のキックオフを告げる笛が鳴った。
伝え聞くところによると、その頃スタジアムの外では、機動隊がデモ隊に向かって催涙ガスとゴム弾を打ち込んでいたらしい。
ブラジルの選手の動きは、いつもと比べてだいぶ鈍かった。
さて、ここから先は、みなさんもご覧になった通りである。
僕自身は、日本代表がなんとかブラジルの攻撃をしのぎ続け、後半相手の動きが落ちてきたところでワンチャンスをものにする、という流れをイメージしていた。開始3分のネイマールのシュートが決まっても、そのイメージは変わらなかった。あそこまで完璧なシュートはいつも決まるものではない。だから、落ち込む必要はなかったし、日本代表の選手も特に動揺している風には見えなかった。
むしろ前半は、ピッチサイドで見ている限り、ブラジル選手の動き、少なくとも右サイドはかなり鈍かったと思う。
ダニエウ・アウベスなんかバルセロナでの時とは別人のようで、クロスのスピードもなかったし、コースも甘かった。フッキは今サウナから出てきたばかりのように大汗をかいていた。
このまま踏ん張って後半の後半まで持っていければ、引き分けは十分に狙えると、僕は安易に考えていた。