ボールピープルBACK NUMBER
催涙スプレーと鈍かったセレソン――。
ブラジルに負けて「がっかり」の贅沢。
text by
近藤篤Atsushi Kondo
photograph byAtsushi Kondo
posted2013/06/18 17:20
デモ行進の先頭と機動隊。ピエロのメイクをした女性たちが、目の前でシャボン玉を吹く……。
今回は氏の最新刊となる『ボールピープル』の発売を記念して、
コンフェデレーションズ杯の紀行エッセイを発表することとなりました。
連載第2回となる本稿では、コンフェデ杯の開幕戦となった
ブラジルvs.日本の試合前後の風景を、文字と写真で切り取ります。
日本ではブラジル戦での大敗ばかりがクローズアップされていましたが、
現地では、実はこんなことが起こっていたのです――。
リオの空港で五時間ほど時間をつぶし、ブラジルvs.日本の試合が行われるブラジリアまでさらに2時間飛んだ。宿泊先のホテルに到着したとき、日本を発ってからもう1日半が過ぎていた。
チェックインの用紙に必要事項を書き込んでいると、フロントマンが聞いてきた。
「コンフェデ?」
そう、と答え、ペンを走らせながら聞いてみた。
「どっちが勝つと思う?」
フロントマンは両腕を広げ、あきれたような表情を浮かべただけだった。
「おれたちが勝つよ!」
ふざけてガッツポーズを見せながらそう言うと(もちろん5%くらいの本気は混入している)、彼は少しムッとして、ぼそっと口にした。
「絶対に、むり」
おれたちのチョキには、おまえのグーじゃ勝てないんだよ。
ブラジリア到着の翌日、つまりブラジルとの試合前日の午後は、開幕戦に出場する2チームの監督記者会見と公式練習に足を運んだ。場所はナショナルスタジアム、来年のW杯にむけて新しく建てられたスタジアムだ。
午後2時40分にスタートしたブラジル代表チーム監督ルイス・フェリペ・スコラーリの記者会見では、会場内のメディアの数があまりにも多すぎ、冒頭の5分が終わるとカメラマンは退場を命じられた。
記者会見は30分ほど続き、その後にブラジル代表の練習が始まった。
通常、試合前日の公式練習では、冒頭の15分が撮影のためにメディアに公開される。しかし、ブラジル代表は練習をすべて公開した。ウォーミングアップ、翌日の先発11人によるボールを使ったフォーメーション練習、フリーキック、コーナーキック。
じゃんけんでチョキを出すふりしてパーを出す、というふうに、相手の偵察部隊をだます作戦なのだろうか。いや違う。そんなセコい話ではない。彼らは泣く子も黙るセレソンである。練習を見せるのは、おれたちのチョキには、おまえのグーじゃ勝てないんだよ、という絶対的な自信があるからだ。それに、練習を非公開にするなんて、ブラジルのメディアは絶対に許さない。