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素敵な“ボールピープル”
との一期一会の物語。
~写真家・近藤篤のフォトエッセイ~
text by
Number編集部Sports Graphic Number
photograph bySports Graphic Number
posted2013/06/17 06:00
『ボールピープル』 近藤篤著・写真 文藝春秋 1800円+税
世界遺産でもあるイエメンの旧市街、スクーターがけたたましく走る大阪の路上、ガボンの砂浜、そして震災3カ月後の三陸地方にある野球場の片隅。
世界中の様々な場所でサッカーボールを蹴っている人たちの姿を、30年近く撮り続けてきた写真家・近藤篤。その近藤が「どこにもないサッカーの本をつくりたい」という思いを結晶させたのが、フォトエッセイ集『ボールピープル』だ。
戒律の厳しいミャンマーのお坊さんだって、ボールを蹴っている。
「サッカーを通じて世界を見てきて、色々と『これ、いいな』と思う光景と出会ってきた。それをこの1冊を通じて他の人にも見せたいと思ったんです」
サッカーを通じて世界を見る――256ページにぎっしり詰め込まれた写真を眺め、リズムのいい文章を読んでいると、本当にそんな気持ちにさせられる。
アフリカ大陸のどこに位置するのかもわからないガボンという国の砂浜に、すごく幸せそうな子どもたちがたくさんいることも、戒律の厳しいミャンマーのお坊さんが路地裏でこっそりサッカーボールを蹴っていることも、この本がなければ知らないままだったに違いない。
「写真には自信があるけれど、文章に関しては本を手にとってくれた人に委ねたいと思っています。運、主役と脇役、喪失、そして恋愛。サッカーを通してこれらについて書いてあるだけで、読んでお金持ちになれるわけでも、サッカーが上手くなるわけでもありません。ちょっとした短編小説、星新一のショートショートのように読んでもらえたら最高ですね」
出会いを求めてネパールやアフリカ、スタジアムへと足を運ぶ。
だが、素敵な“ボールピープル”と出会うのは簡単ではない。近藤は出会いを求めて、試合開始6時間前にはスタジアムに向かい、ネパールの街を自分の足でひたすら歩き、黄熱病の予防接種を打ってアフリカに出かけていく。
「とにかく歩き回るんだけど、撮り逃したって思うこともあります。広場にちょっと間隔を空けて石のブロックが2つ置いてあったらそれは即席のゴールだし、砂の上に靴とボールの跡があれば、ボールを蹴る子供たちの姿を思い浮かべる。ちょっと遅かったなって。三流のシャーロック・ホームズみたいでしょ?(笑)」