野ボール横丁BACK NUMBER
投手・大谷翔平が生き残るため――。
田中将大の1年目から学ぶべきこと。
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2013/05/24 12:05
一軍初登板は86球のうち65球をストレート(最速157km)と、力の投球を見せた大谷。「気がついたらまっすぐしか投げていなかった」と語った。
5月23日、札幌ドームでのヤクルト戦。日本ハムのゴールデンルーキー大谷翔平の一軍初登板を観ながら、6年前、楽天の田中将大のデビュー時を思い出していた。
2人のピッチングスタイルは実に対照的だった。
大谷の投手としてのこだわり。それを見せたのは2つのシーンだったように思う。
ひとつ目は1回表だった。ワンアウト三塁のピンチで3番・岩村明憲を迎えると、闘争心を剥き出しにし、オールストレート勝負に挑む。
154キロ(空振り)。156キロ(空振り)。153キロ(ボール)。そして4球目、154キロの直球でセカンドゴロに仕留めた。
もうひとつは4回表だ。ツーアウト一塁で、2回に2点三塁打を許した中村悠平を打席に迎えると、ここでも前打席で捕えられた直球をひたすら続けた。しかし力が入り過ぎたのか、ボールが上ずり四球で歩かせてしまう。
「田中は真面目すぎる」と当時の野村監督がぼやいた。
結局、86球を投げ5回2失点で降板した一軍初マウンドだが、いちばん自信のあるストレートにこだわるという意味では「○」だったように思う。
逆に田中はデビュー時、そのこだわりを封印し続けた。
田中も人一倍、真っ直ぐにこだわりを持っていた。しかしまだ自信がなかったのだろう、最初の数試合は先頭打者やピンチのときの初球は必ずといっていいほど変化球から入った。
そのため当時の楽天監督・野村克也は、それなりに抑えても、こうぼやくことしきりだった。
「怖いのか、コースをねらい過ぎるのか。若者に似合わず、真面目すぎる。もっと乱暴で、無謀でいいのに。荒々しさが足りないんだよ」
それに対し田中は困惑を隠さなかった。
「甘いコースでもいいから思い切り投げろってことなんですかね……。打たれても勉強になるとか言われても、それで下に落とされるのは嫌なんで。公式戦に入ったらもう試す段階じゃない。勝敗を握るピッチャーが、一か八かなんてギャンブルみたいなことはできない」