F1ピットストップBACK NUMBER
フェラーリの侍エンジニア、浜島裕英。
16年前のスペインGPでの忘れえぬ涙。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byMasahiro Owari
posted2013/05/17 10:30
“ビークル&タイヤ・インタラクション・ディベロップ・ディレクター”として働いている浜島。悪評高いピレリタイヤを相手に、シャシーとのバランスを考える、今季最も注目される部署で陣頭指揮を執る。
ブリヂストン時代は“性能が良すぎて”批判された!?
ブリヂストンにとって最後のF1となった2010年。
14年間の集大成とも言えるタイヤのスペックは、スピードも向上し、耐久性に優れた魔法のタイヤともいえる出来だった。しかし、チームからは「これでは速いマシンが勝つだけでドラマが生まれない」と批判が続出した。
道具を使って競争するモータースポーツで、自らが使う道具を批判しても始まらない。大切なことはその道具をいかに上手に使うか。
「今年のタイヤはデグラデーション(性能劣化)が大きい。特にカタロニア・サーキットのようなタイヤに厳しいコースではいかにタイヤに優しいセッティングをマシンに施すかがポイントになる」(浜島)
フリー走行から、フェラーリは66周のレースを見据えたセットアップを行っていく。そして、浜島はチームに「4回ストップ」を進言する。
浜島の読みが見事に当たり、アロンソがベッテルを逆転。
その自信はスペインGPの予選で5番手に終わっても変わらなかった。それは、レースで打った最初の一手が物語っていた。
スタートダッシュを決め、3番手に浮上したフェルナンド・アロンソ。前を走るのはニコ・ロズベルグ(メルセデスAMG)とセバスチャン・ベッテル(レッドブル)だった。ピットストップで抜くためには早めにピットストップしてニュータイヤに変えればいい。ただし、闇雲に早く入れれば、ピットストップ回数が増える。相手より少しだけ早いギリギリのタイミングを見計らう必要がある。
浜島は金曜日からレースペースに苦しんでいたライバル勢は3ストップを採用すると読んでいた。66周のレースを3回ストップで乗り切るには、最初のピットインまで10周以上は走りたい。そう読んだ浜島は9周目にピットインの指示を出す。この読みは当たり、1周後にピットストップした2番手のベッテルを逆転。3ストップにこだわってペースが上がらないロズベルグも、2周後にオーバーテイクした。