野球クロスロードBACK NUMBER
本調子でない自分をマネジメントする。
巨人・杉内俊哉の“俯瞰する力”。
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2013/05/15 11:45
昨季は、交流戦の楽天との試合において9回2死で四球を与え完全試合を逃し、ノーヒットノーランとなっている杉内。交流戦通算最多勝記録の更新にも期待がかかる。
絶妙に制球されたスライダーだったが、ボールの判定。
カウント1-2からの4球目、外角低めへのスライダーは、キャッチャーの阿部慎之助が捕球した瞬間、ストライクを確信して立ち上がるほど絶妙にコントロールされていた。
しかし、判定はボール。
続く5球目もほぼ同じコースに鋭いスライダーが決まる。これもボール。
結局、ファウルで4球粘られた末に、杉内は根元に押し出しの四球を許し、マウンドを降りた。
ここで試合の流れは明らかに変わった。
8回、山口鉄也がロッテ打線に捕まり逆転を許し、巨人は敗れた。杉内は敗戦投手にこそならなかったものの、試合後、言葉少なに忸怩たる思いを漏らす。
「悪い……本当に悪いですね。中継ぎに負担をかけて申し訳ない」
そして、6回の微妙な判定について質問が飛ぶと、はっきりとこう答えた。
「審判が『ボール』と言えばしょうがないですから」
黒田と杉内のケースは、似て非なるものなのかもしれない。
しかし、ひとつだけ共通項があるとすれば、杉内も黒田が言った「その1球を投げるためにたくさんの準備をしている」ことだ。
WBCの影響もあったが、焦らずに自分の投球を見直した。
今季の杉内は、調子がいいとは言い切れない。それでも、14日のロッテ戦終了時点で3勝1敗、防御率2.68と安定した数字を残せているのは、己を知り、できうる限りの調整をした上で、マウンドでは最低限、自分の責任を果たすためのマネジメントを意識しているからだ。
昨年8月に左肩の違和感を訴えて以降、WBCでは登板したものの、例年に比べると十分な投げ込みを行なえていなかった。それは、シーズン初登板の4月3日のDeNA戦、ブランコに特大3ランを浴びるなど3回途中5失点でKOされた一戦を見れば頷ける。
それでも杉内は、焦らなかった。
首脳陣と投球フォームの見直しなどを丹念に行うことで、少しずつではあるがコンディションを整えてきたのだ。
その証左のひとつといえるのが、今季2試合目だった4月10日の阪神戦だった。