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田中将大、斎藤佑樹、ストラスバーグ。
投球回数に現れる若手育成法の違い。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byHideki Sugiyama/Getty Images
posted2010/08/12 10:30
ストラスバーグはナショナルズとの間でドラフト史上最高額の4年1510万ドル(約13億円)で契約を結んでいる。ちなみに田中は、契約金1億円+出来高・年俸1500万円(全て推定)で楽天入り
今年の秋はドラフトの「豊作年」と言われている。特に高校のときから「斎藤・田中世代」と言われた1988年、1989年生まれの選手たちには日本のプロ野球を背負って立っていって欲しい。
実はこのコラムを書くにあたって調べ物をしていたら、今季メジャーリーグに昇格し、話題をさらっている超大物ルーキー、スティーブン・ストラスバーグ(ワシントン・ナショナルズ)も「斎藤・田中世代」と同級生なのだということが分かった。
偶然の一致を発見したわけだが、そこでストラスバーグ、斎藤、田中の高校を卒業してからの育ち方を投球回数をもとに調べてみた。
投球回数は指導者の投手の育て方の発想が如実に表れるスタッツだ。
2007年 | 2008年 | 2009年 | 2010年 | |
---|---|---|---|---|
ストラスバーグ | 37 | 109.1 | 109 | 98.2 |
斎藤佑樹 | 116.2 | 143.1 | 98.1 | 41 |
田中将大 | 186.1 | 172.2 | 189.2 | 124 |
参考 | 1999年 | 2000年 | 2001年 | 2002年 |
松坂大輔 | 180 | 167.2 | 240.1 | 73.1 |
※ 斎藤佑樹は六大学リーグ戦に加え、全国大会、日米大学野球を含む
ストラスバーグはサンディエゴ州立大で3年間プレーしたが、1年生のときの投球回数は37回にしか過ぎない。これは大学の監督が1年生にはあまり無理をさせず、リリーフで使っていくという方針を立てていたためである(アメリカの大学ではプロと同じように先発とリリーフは分業制だ)。
ストラスバーグもブルペンから1回のみの登板が多く、2年生になって先発に転向するが、北京五輪での2度の登板を含めてようやく100イニングを超えてくる。そして3年生になってもほぼ同じような投球回数だが、このころからストラスバーグはメジャークラスの実力を持っていることを証明し始め、109イニングの登板で195個の三振を奪い、ドラフト1位指名は間違いなしと言われるようになっていた。
アメリカの大学の監督は、優秀な選手を預かるとプロに送り出すまでに大事に育てる。体をプロに向けて準備し、消耗しないように気を配る。それが監督の評価にもつながる。
早稲田大学のエースとして多投する斎藤の肩の負担は?
では早稲田大学に進んだ斎藤はどうだったか?
日本は春・秋の2シーズン制、しかも練習での投球数も違うから単純な比較はできないが、斎藤は1年の春から先発を任されたため、1、2年時の投球回数がストラスバーグに比べると多い。斎藤の場合は人気が先行した面があり、それが投球回数の増加につながってしまった。
さらに肩の保護の観点から言えば、東京六大学野球は第3戦に決着がもつれ込んだ場合、斎藤のようなエースは土曜に投げ、中1日で月曜に投げるパターンが多い。
かつて法政大学で通算47勝をマークした江川卓氏は、土曜日に投げて負けると日曜、そして月曜と3連投していたことがあった。プロで息の長い活躍ができなかったのは、大学時代の連投の影響もあったのではないか……といまも思う。大学に進んだ場合、こういった連投が後々になって影響を及ぼしていることが十分考えられるのだ。