REVERSE ANGLEBACK NUMBER
剛球と変化球をフラットに投げ分ける、
巨人・菅野智之が示す次世代投球術。
text by
阿部珠樹Tamaki Abe
photograph byJIJI PRESS
posted2013/04/03 10:31
巨人の新人で開幕カードに先発したのは2003年の木佐貫以来。好投だったが、試合後は「右打者にはある程度思い通りに投げられたが、左打者にはもっと厳しく攻めなくてはいけない。そこが次の課題」とコメントした。
新人の菅野には、若さゆえの破綻がほとんど無かった。
変化球の使い方もみごとだった。スライダー、カーブで簡単にストライクが取れる。フォークはストライクゾーンからボールゾーンに落ちる。2シームの変形である1シームも使い、内野ゴロで打ち取る技術も持っている。
老獪というか、大人というか、若さゆえの破綻などほとんどない投球だった。
見ていて一番感じたのは、ストレートに対する感覚である。
威力あるストレートでぐいぐい押していても、コントロールがなかなかつかない、あるいは球速が落ちるとファウルで粘られたり打ち込まれたりする。それが若い剛球投手の特徴だ。ところが、菅野はボールは剛球でも、全体の投球は剛球投手、パワーピッチャーというよりは技巧派、軟投派の部類なのだ。
今年のスワローズの開幕投手だった館山昌平に話を聞いたとき、彼はストレートとかスライダーとかいった分類はあまりせず、どれも自分の「投球」と考えているという話をしていた。
この日の菅野の投球は、館山の考え方に近いものがあったように思う。150km近い剛球も投球のひとつ。
「直球が主体で変化球は添え物」という固定観念を覆す。
これまで、日本の投手や指導者は「投手はあくまでもストレートが基本で変化球は補助的なもの」という考えが強かった。たとえていうなら、ストレートが主食(ごはん)で、変化球がおかずというとらえ方だ。
「おかずばっかり食べちゃダメですよ」
昔の子どもは親によく叱られたものだが、投球にもそれと似たような考え方があった。
「変化球にばかり頼っちゃ大成しない」
しかし、菅野の投球を見ていると、そうした伝統的な考えとは違うスタンスで投げているように感じる。魚沼産コシヒカリは食べるが、それだけで腹いっぱいになろうとはせず、バランスよくおかずも食べる。主食とおかずといった考えはとらない。時にはごはんを食べずにおかずだけで済ませることもある。