野球善哉BACK NUMBER
開幕ローテ確定の阪神・藤浪晋太郎。
新人離れした“巧さ”が直球を殺す。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byKyodo News
posted2013/03/29 10:31
春季キャンプ中、オリックスとの練習試合で初めて登板した時の藤浪の投球フォーム。
“虎の救世主”に積み残されたままのストレートの課題。
「甲子園・春夏連覇のエース」という看板だけではなく、実際にこの男は只者ではない、と感じることができた。キャンプ入りから一軍に帯同させ、開幕からローテーションに入れようという和田監督の大胆なプランにも頷けるというものだ。
だからといってそんな新人を、昨季5位に低迷したタイガースの救世主的な存在として期待するのは時期尚早ではないだろうか。
確かに、プロ1年目から活躍が期待できる要素は多いが、小手先の“巧さ”で乗り切ってしまおうとしている今の姿には危険な匂いも感じるのだ。
藤浪には、高校時代から置き去りにされてきた課題がある。
それはストレートの質である。
藤浪は自身の究極の目標として「ストレート1本で勝負できるピッチャー」を掲げているが、実は、ストレート勝負で抑えた経験は少ない。コーナーに決まるスライダーやカットボールを駆使し、ストレートを見せ球に使う。あるいは、走者がいる場合なら、間合いを計りながら、バッターの集中力をそぎ勝負していく。甲子園の春夏を連覇した彼のピッチングの背景にはそうした“巧さ”があったのだ。
それは言い換えれば……高校野球を引退するまで、ストレートの質という課題をクリアーできていないことの証でもあった。
ストレート勝負で本塁打を打たれた場面が頭をよぎる。
忘れられない場面がある。
それは、昨夏準々決勝の天理戦。8-0とリードし、甲子園初完封が目前に迫った9回裏2死走者なしでのことだ。
相手には天理の強打者・吉村昂祐を迎え、カウントは3-2と追い込んでいた。アウトコースの低めにスライダーを投げて三振。そんな打ち取り方をイメージしていたが、しかし藤浪は、この場面でストレート勝負を挑んだのだ。そして、渾身のストレートが簡単に打ち返されてしまう……。それも、左中間最深部に飛び込む本塁打だった。
藤浪はこの勝負を、こう振り返っている。
「点差もあったし、ストレート勝負してもいいんじゃないかと思って遊び半分の気持ちで投げました。ストレートにこだわったわけではなく、試したいというのがあった。でも、打たれてしまったので、自分のストレートはまだまだ通用しないと思いました。相手がストレートを狙ってきている中で、それを打たれてしまったわけですから」