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ナマの証言を丹念に集め、
『10・8決戦』を活写した力作。
~「国民的行事」の真相に迫る~ 

text by

馬立勝

馬立勝Masaru Madate

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posted2013/03/29 06:00

ナマの証言を丹念に集め、『10・8決戦』を活写した力作。~「国民的行事」の真相に迫る~<Number Web> photograph by Sports Graphic Number

『10・8巨人vs.中日 史上最高の決戦』 鷲田康著 文藝春秋 1700円+税

意地を張りとおして敗れ去った高木監督の“渋さ”。

 解説者ばかりか中日の選手からも「投げるのはお前ではない、山本昌か郭だろう」と、冷たい視線を浴びせられ、3点リードされた最後の2イニングのマウンドを任された野中は「それは一流の陽の目を見た人の見方」と一蹴し、「あんな試合で投げられたのが嬉しかった」と言うのだ。ベンチ入りか、外れるのか、その線上にいた巨人の宮本、水野の2投手は試合前夜に同じ宿舎に泊まっていた横綱・曙にさそわれ断り切れずに外出するが、やはり横綱から呼び出されて困惑する元木を野手の先発要員と判断して、「お前は部屋にいろ」と守ってやる……。

「野球とはチームの一員としてプレーする個人競技」と卓抜な定義をした大リーグのコミッショナーがいたけれど、強烈なエゴの衝突の大リーグの“個人競技”と、まずチームがありその中での自分の立ち位置を自覚して“個人競技”をする日本とは、やはり違う。主人公は中日・高木監督かもしれない。8月31日、巨人との差6.5ゲーム、来季の契約はしない、と宣告された。大リーグならチームを放り出すはずだが、ここから10・8決戦の最後まで意地を張りとおして敗れる姿が渋い。

 テンションの高い試合は2度の中断があるが、歌を歌って息抜きの「セブンス・イニング・ストレッチ」の中断とは違う。落合の脚の故障、立浪の肩の脱臼、両チームのベンチ裏は主軸の故障治療や交代準備で修羅場になっていた。

 著者とは一緒に取材していた時期がある。ロッカーの入口に顔を突っ込んでいつまでも粘って取材している記者だった。そんな著者の本領を発揮した力作。

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