フットボール“新語録”BACK NUMBER
スペインリーグ初の日本人オーナー、
坂本圭介が夢見る「和製欧州クラブ」。
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph byShinya Kizaki
posted2013/03/22 10:30
今は赤坂にオフィスを構える坂本圭介。バルセロナやレアル・マドリーの育成キャンプを誘致する(株)イープラスユーの代表取締役でもある。
「私たちはサバデルで、日本の子供たちを受け入れる体制を 作っているところです。将来、サバデルで5、6人の日本人選手が プレーする時代が来てもおかしくないですよ」
坂本圭介(スペイン2部・CEサバデルのオーナー)
しばしばメディアでは、第一報が間違っていたがために、事実とは異なる情報が一人歩きし、それが定着してしまうことがある。スペイン2部、サバデルのオーナーに関するニュースが、まさにそうだった。
2012年6月、スペインの複数の新聞が次のニュースを報じた。
「日本人投資家グループがサバデルの買収に動いている」
日本の一部のスポーツ新聞も、それを翻訳する形で記事にしている。実際に7月に買収が完了したときも、「日本人投資家グループがクラブの株の51%を取得した」と報じられた。
しかし、この報道には誤りがある。なぜならサバデルを買収したのは、投資家でも、グループでもないからである。
サバデルの新オーナーになったのは、坂本圭介、44歳。ネットワークや通信の業界で若くして成功を収めた気鋭の経営者だ。
“通信のプロ”のサッカー界への挑戦はいかにして始まったのか?
もともと坂本は、サッカーと深い縁があったわけではない。学生時代の部活はバスケットボールで、大阪市立大学の土木工学科を卒業すると日立系の商社に就職。1年で辞めて外資系の通信機器メーカーに飛び込み、専門知識を貪欲に吸収して社内の激しい競争を勝ち上がっていった。
そして33歳のときにコンサルタントとして独立し、34歳の若さで外資系通信機器メーカー『スタレントネットワークス』の現地社長に就任。哲学は「バリューを生み出せなければ、いる意味がない」。“理系的コンサルタント脳”と、グイグイ突き進む“外資系競争力”を併せ持つ経営者だ。
あえてサッカーとのつながりを言うならば、日本サッカー協会の川淵三郎・最高顧問と同じ大阪府立三国丘高等学校出身ということくらいである。
そんな坂本がサッカーと出会ったのは、2011年4月のことだった。知人を通して「ぜひバルセロナのスクールを日本で作りたい」と相談されたのだ。その約半年前、坂本は『スタレントネットワークス』が『シスコシステムズ』に買収されたのを機に、現地社長の座から退いていた。まさに「新たなビジネスに挑戦したい」と考えていたときだったのである。
そのとき坂本は無謀にも、こう感じたという。
「自分はこれまでNTTやKDDIといった通信業界の巨人を相手に仕事をしてきた。バルサなら、相手にとって不足はない」
こうして“通信のプロ”のサッカー界への挑戦が始まったのである。